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2026年1月12日

対中外交を見据え、日本はいかなる対米戦略を構想すべきか ――「ドンロー主義」下の国際秩序と台湾問題【藤井聡】

1.変容する米国の世界観と「ドンロー主義」

近年の米国外交を理解するうえで、重要なキーワードとなっているのが、いわゆる「ドンロー主義」です。これは、米国が自国の存立と直結する西半球の覇権確保を最優先課題と位置づけ、そのためには国際法や従来の国際規範にも必ずしも拘泥しないという、きわめて現実主義的な世界観を指します。

この発想に立てば、米国が西半球の秩序維持に注力する一方で、東半球における「世界の警察」としての役割を縮小させていくのは、むしろ自然な帰結であると言えるでしょう。すなわち、米国は「どこでも介入する国家」から、「自国の死活的利益に関わる地域に集中する国家」へと、明確に性格を変えつつあります。

しかし、これは米国が東半球の情勢から完全に手を引くことを意味するものではありません。米国が一貫して許容しないのは、東半球において特定の大国、特に中国が地域覇権を確立することです。この点において、米国は長期的な視野に立った「米中冷戦」を戦う覚悟を、依然として保持していると考えるべきでしょう。

2.台湾問題の戦略的意味
こうした文脈の中で、台湾の地政学的重要性は極めて大きいものがあります。仮に台湾が中国の支配下に置かれれば、第一列島線は突破され、西太平洋における制海権・制空権は大きく揺らぐことになります。これは単に台湾海峡の問題にとどまらず、シーレーンの安全性を通じて、米国自身の安全保障にも直接的な影響を及ぼします。

さらに、台湾が中国の支配下に置かれるか否かは、中国が「地域覇権国」にとどまるのか、それとも事実上「東半球の覇権国」へと飛躍するのかを分ける、決定的な分岐点でもあります。

加えて、最先端半導体の生産能力が台湾に集中している現実を踏まえれば、台湾の帰趨は軍事のみならず、産業・技術の覇権構造そのものに直結する問題であると言えます。

ただし重要なのは、台湾防衛が米国にとって「絶対的な核心的利益」ではなく、「準・核心的利益」として位置づけられている点です。すなわち、同盟国(例えば、日本や韓国)の協力が乏しく、米国側のコスト負担が過大になると判断されれば、米国からの関与の度合いが調整される余地が常に存在するという、冷厳な現実を直視する必要があります。

3.勢力均衡という現実主義
ここで改めて確認すべきなのは、国際秩序の安定が何によってもたらされるのか、という根本的な問題です。理想的には、国際法や国際規範が平和を保障するべきでしょう。しかし、現実の国際政治において、平和の基盤となってきたのは、むしろ「勢力均衡(Balance of Power)」でした。

この認識は、特定の国家の価値観に依存するものではなく、歴史的に繰り返し確認されてきた経験則です。米国の外交思想がこの現実主義に回帰している以上、日本もまた、観念論ではなく、勢力均衡を前提とした戦略的思考を共有する必要があると考えます。

ただし、今回のベネズエラにおける軍事作戦について、米国側は、同国から流入する薬物が米国社会に深刻な被害をもたらしていることを踏まえ、これを阻止し秩序を維持するための必要な「法執行」であると位置づけています。
https://www.fnn.jp/articles/-/985486?utm_source=chatgpt.com

この点について、トランプ大統領自身も、中国にとっての台湾問題とは全く性質の異なるものであると強調しており、日本としてもその認識を十分に理解しておくことが必要です。

4.日本に求められる役割――防衛と負担の覚悟
台湾海峡の安定を維持するために、最も重要な要素の一つは、日本自身の防衛力です。台湾防衛が「準・核心的利益」である以上、米国が関与を深めるか否かは、同盟国、とりわけ日本がどこまで具体的な負担と覚悟を示すかに大きく左右されます。

言い換えれば、日米同盟の実効性は、日本の防衛力整備と戦略的意思表示によって試されていると言えます。防衛力の強化とは、単なる軍備拡張ではなく、東半球において中国を「現状の地域大国」にとどめ、覇権国化を抑止するための、同盟内役割分担の明確化にほかなりません。

5.レアアースという戦略的要衝
もう一つ見逃せない論点が、米中関係における構造的脆弱性、すなわちレアアース依存の問題です。市場規模自体は決して巨大ではありませんが、現代の産業や軍事技術に不可欠な資源であるがゆえに、その戦略的重要性は極めて高いものがあります。

安全保障の観点から見れば、日米が協力して中長期的な投資を行うことで、中国依存からの脱却は十分に現実的です。この分野における協力は、単なる経済案件ではなく、米中冷戦構造そのものに影響を与える戦略的投資として位置づけるべきでしょう。

6.おわりに――「要請される同盟」から「戦略を共有する同盟」へ
今後の日米関係に求められるのは、相手からの要請に応じる受動的な同盟ではなく、対中戦略を巡る利害と役割分担を明確にしたうえで、主体的に戦略をすり合わせる同盟関係です。

台湾問題、勢力均衡、防衛負担、資源安全保障――これらを一体として捉え、日本自身の国益と地域の安定を同時に実現する外交構想が、今まさに問われていると考えます。

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