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2022年3月29日

【室伏謙一】「地方創生」とはそもそもは何だったか?

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 先々週の19日土曜日、九州大学大学院未来共創リーダー育成プログラム主催シンポジウム「豊かで強靭なまちづくりを目指して ― 脱・緊縮の地方創生の可能性」で、パネリストの一人として、「「改革」ではなく、国が役割を果たし、守り育てる地域再生を」と題して講演してきました。(私以外のパネリストの方々については、こちらをご覧ください。 https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/events/view/1166/ )

 ご来場いただいた方、オンラインで参加していただいた方、ありがとうございました。

 今回のシンポに引っ掛けて、地方創生というものについて少し考えてみたいと思います。

 まず、シンポジウムは、脱緊縮の地方創生というところがポイントです。現状で地方創生と言うと、緊縮が前提、地方が自分で頑張るのなら国が応援してあげるというのが基本的な仕組みですが、この考え方が始まったのは小泉・竹中構造改革の時。「民間にできることは民間に、地方にできることは地方に」という考え方の下、構造改革特別区域制度により、お金をかけずに、規制の特例措置を活用して、民間企業等と上手に組んで地域を活性化していこうというものでした。その後に、似たような制度として設けられたのが、地域再生制度ですが、こちらの方は税制優遇措置や財政支援措置も一応含まれるものです。現在の地方創生に関する施策は、後者の地域再生制度により進められてきています。

 その現在の地方創生の目玉は、何と言っても地方創生推進交付金。地域再生計画を作成、そこに計画の内容に紐付けて具体的に欲しい交付金の額を記載し、認められれば交付金が交付されて事業ができるという仕組み。安倍政権以降ずっと毎年度この原資として1000億円が措置されてきました。しかし地方に任せて自分たちで考えろという仕組みであるということもあり、一件あたり数百万円から多くても数千万円台前半程度で、具体的な事業も地域の産品を使った新商品開発や観光ルートの開発、イヴェントといった程度のものが多く、地方を本当に創生するに至るようなものはあまり見られないと言った方がいいかと思います。

 ちなみにこの計画を申請し、交付金の交付を受けることができるのは地方公共団体のみであり、小さな地公体の場合は、そもそも一事業で大きな額を動かすということをやったことがないので、金額も事業規模も小さくなりがちであるという点もあるようです。(某首長さんからそんな話を以前聞きました。)

 しかし、それ以前の問題として、この地方創生は基本的に3年間で結果を出すことが求められていますから、中長期的視野を持った事業などなかなか出来ません。これを支援する民間企業等にとってはいい儲けの機会ですから、すぐに結果が出るものに傾きがち。(勿論、ある程度の期間にわたってチャリンチャリンと出来る仕組みを3年間で構築できればいいですが、地方創生を支援するようなコンサル、シンクタンク(と言っても内実はコンサルですが)は短期で結果を出さないと評価されませんから、中長期的事業構築のための投資というのは、個別のプロジェクトベースでは困難でしょうね。)

 地方創生、地域の再生でも地域活性化でも名称はいずれでもいいですが、結局、本当に創生なり再生なり活性化なりにつながってきたのかと考えると、そうなった例はごく稀なのではないでしょうか。

 すなわち、今後地方創生なりを本気で考えるというのであれば、これまでの地域活性化施策、地域再生施策、地方創生施策の総括をすることがまず必要であると思います。(そんな話もシンポでさせていただきました。)それをせずに、失敗も成功も有耶無耶なまま、屋上屋を重ねるがごとく似たような政策を繰り返してきたことが地方の衰退に拍車をかけたのではないかと考えざるをえませんね。(ここも指摘して、処方箋の方向性についてお話ししました。20分しか時間がないので、本当に方向性しか話せませんでしたが。)

 そして、そうした総括をしてこなかったからこそ、地域を、地方を衰退させた大元は緊縮財政であるということが理解できず、緊縮を続けたまま地方を活性化しようという愚策を続ける結果となってしまったのではないかと思います。

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【室伏謙一】「地方創生」とはそもそもは何だったか?への2件のコメント

  1. この世は既にあの世 より

    構造改革だよ。グローバル化、非正規労働化。

    それ以前に保守を自称するなら属国だからだろ。戦後の総括せずして何を言ってるんだよ。安倍政権で改革は終了。後は大企業、既得権益の改革。

    今更守るものなど何もないだろ。左翼が叫ぶ自分の安全くらいだろ。

    現実を認められずにカジノに反対、ベーシックインカムに反対で自分には具体策が何も無し。ただ緊縮財政だあ、と馬鹿の1つ覚えみたいに喚くだけ。

    トリクルダウンの機能が失われた国で予算をつけてトリクルダウンで豊かになろうとする頭の悪さ。

    高齢者が仕切る地方の首長に予算をつけて、また引退しない高齢者が馬鹿な政策をやり時間をムダするのは分かりきっているが、高齢者批判は国民の分断だあと叫ぶ頭の悪さ。

    正規と非正規でとっくの昔に国民は分断されとるのに気が付かない感性の無さ。

    その頭の悪さと感性の無さは一体何処から来るの?

    あんた原稿書くのは全く向いてないよ。

    なーんにも感じない、現状認識が10年遅いし何の参考にもならない。水島と同じで炊き出しの手伝いか土建仕事にでも従事した方が世の為人の為。

    高市を応援してみたり人を見る目も無い。一体お宅の人生ってのは何を見て、何を感じ、何を知り今日まで生きて来た?

    たまに目にする地方への移住募集などもお宅と同じでピント外れの募集。要件厳し過ぎ。焼石に水みたいなことしか思い付かない平和ボケした中高年がすべき事は現実を見て現実を知ること。

    と言っても40年50年生きてれば昔と比べりゃ直ぐにだれでも分かるだろう。よっぽどの馬鹿じゃなけりゃ。

    昭和のような経済の仕組みは終わったんだよ、新たな道、違う道を行くべき。

    自民党は構造改革政党、新自由主義政党、だから今が新自由主義。竹中平蔵が「小泉改革は良かったんだけどセーフティネットの構築をしなかったのが不味かった」と何年も前に言っていたがその通り。

    自称保守派が脚を引っ張ってるんだよ。安倍応援団長の水島が日本を破壊して、破壊し終わったと思ったらアンタみたいなアホな自称保守派がカジノやベーシックインカムに反対する。

    何で脚を引っ張るの?現状認識が10年は遅れてるからだ。それで同胞は死ぬんだぜ。そこをよく覚えておけ。

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  2. 利根川 より

     霞が関リークス視聴しました。次期覇権国家をめぐる争いが激しさを増す今日この頃ですが、東の最前線である日本が侵略されないようにするためにも国内に目を向ける必要があると改めて思いました。以下、霞が関リークスから抜粋⇓ 

    室伏謙一さん「どうみても有事に対応できそうにない骨抜きの経済安保法案が提出されている件」

    室伏さん「骨抜きになった原因は小さな政府と緊縮政策。緊縮でどうやって有事に対応するというのか」

    経済安保法案:(正式名称⇒)経済政策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案

    11年前の東日本大震災。あの時は生産工場が北関東以北にあったため、東京に商品が入ってこなくなったということが起こった。

    例:
    水のペットボトルにはどこで採取したのか、どのような成分が含まれているか、そうしたことが書いてあるラベルが貼ってあるが、食品衛生法上このラベルが貼られていない商品は販売ができないことになっている
    こういったラベルへの印刷技術をもっている工場が北関東に多かったため、北関東の高速道路がやられると『水はあるのだが販売ができない』という事態が発生した

    今回のコロナ禍、国内生産していなかったせいでマスク一箱5000円などという事態になったり、半導体が不足して電化製品がつくれなくなったり大変困った事態になった。
    また、現在ウクライナは戦争の真っただ中だが、その影響で日本も海外からの資源や食料品の輸入が厳しい状況になってきている。
    こうした国際情勢の複雑化、社会構造の変化に対応するためにつくられたのがこの法案。

    一見すると素晴らしい法案だと思えるが、問題は中身であった。

    <経済安保法案 第二章 重要物資の安定的な供給に関する制度>

    ・重要物資を確保する手順

    必要とする重要物資を大臣が指名

    生産者は計画書を大臣に提出し、認定を受ける

    認定をした一般社団法人や一般財団法人が基金を立ち上げて、そこから助成(補助金)をうける

    日本政策金融公庫が金融機関を指定し、事業者に対してそこを介して貸し付けを行う

    この法律は、経済安全保障確保のための有事を想定した法制のはず。有事の際に『銀行から融資を受けるための事業計画書』をだしたり、『政府の補助金を受けるための計画書』を審査したり、そんな悠長なことをやっている余裕があるのかと。
    こんなもので有事に対応できるわけがない。
    また、事業者は非常事態の際に政府が指定する重要物資の生産に専念することになるが、専念することで他の商品を生産販売ができなくなる。それによる損失は当然、政府が負担すべきだが、そのことについてこの法律は”全く触れていない”

    室伏謙一さん「こんな緊張感のない経済安全法制なんて安全保障でもなんでもないですよ。なぜメディアは全く報道しないのか」

    <経済安保法案 第三章 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度>

    特定社会インフラ:
    電気 ガス 石油 水道 鉄道 貨物自動車運送 外航貨物 航空 空港 電気通信 放送 郵便 金融 クレジットカード

    こうしたモノを主務大臣が特定社会基盤役務として事業者を指定する

    大臣「ガスプラントを基幹インフラ役務として指定したよ。これでガスに関しては有事の際にも安定して確保ができるね」

    室伏さん「ガスプラントだけ指定しても意味ねえだろ。ガス管要らんのかい!」

    上で特定社会インフラとして挙げられている分野だけでなく、関連分野まで包括的に含めて、有事の際になにがしかの措置がとれるようにして初めて有事の際の経済安保といえるのではないか
    この中で、水道と空港に注目すると、水道分野と空港には現在、コンセッション方式で外資が参入しています。
    宮城ではすでにフランスの民間水道会社ヴェオリアがやっていますが、水道民営化については海外でも様々な問題が発生している。

    例:
    パリでは1985年に水道が民営化されてから2008年までに水道料金が174%増えた。2010年にはパリ市の水道は再公営化されている
    (他、2000年~17年までの間に267事例の再公営化がなされている)

    ドイツ・ベルリンでは2014年に水道が再公営化されたが、買い戻すために13億ユーロという莫大なコストがかかっている

    海外のように日本でも再公営化を考えねばならないような問題が起こった場合にどうするのかといったことについても全く触れられていない

    官僚「フランスの企業だから大丈夫!」

    室伏さん「ヴェオリアは民間会社であってフランス政府ではない。なので、世界中でビジネスを行っている」

    室伏さん「中国でビジネスをするにあたり、中国政府になんらかの忖度をする可能性だって民間会社なのだから当然ある。そこは考えておられますか?」

    安全保障というものはあらゆる可能性を考えて、それを一つ一つ潰していくような措置を講じる必要がある。
    少なくとも、大都市圏についてはコンセッション方式の水道民営化は経済安保法案の中で規制する必要がある。
    ところが、外資をどうするのかについても考えていないようだし、特定の国をどうするのかといったことも考えていないことが透けて見える。
    つまり、今までやってきた構造改革が日本の安全保障を脅かす可能性があると言うことで、これを見直そうという法案になっていないと本来はまずいのだが、そうした姿勢は一切見ることができない。

    <経済安保法案 第四章 先端的な重要技術の開発支援に関する制度>

    経済産業者の新機軸 大規模・長期・計画的に政府が財政支出を行うことが最低限必要なことと思われるが、政府が主体的に行うのではなく

    官民パートナーシップ

    だそうで…しかも、調査・研究業務は委託で済ませるのだそうな
    少なくとも、”国立”大学法人に委託、あるいは政府内に調査・研究業務を行う部署を作ってそこ主導で行っていく体制を作っておくべき
    官民パートナーシップとかいって、怪しい人物に重要技術を盗まれていては話にならないのでスクリーニングの必要はあるし、そのために警察や公安から各大学に人を派遣する必要もある
    人材が足りなければ増員の計画も必要
    こうした視点がこの法律にはまったくない。これで安全保障はないでしょう…

    <経済安保法案 第五章 特許出願の非公開に関する制度>

    規制に関しては最小限にとどめる

    ほん法律は安全保障を確保することを目的とした法律なので、最小限ではなく、必要最大限の規制をすることを明記しておかねばならないはず。
    そして、それによる損失についてはしっかり補償する旨も合わせて書いておく必要がある。
    現状の経済安保法案では、有事に対応出来ないと思われるので、一度引っ込めて作り直しすべき。

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