政治

2020年9月15日

【室伏謙一】無責任な「改革派」の言説に惑わされてはならない

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 

 自民党総裁選の投開票が14日に行われ、菅義偉候補が新たな自民党総裁として選出されました。菅候補については、総裁選を通じて新自由主義に相当程度傾倒していること、経済、財政、行政、国際政治等について、専門的なもの以前に基本的な知見すら欠けていることが明らかになりました。(この辺り、私のtwitterで指摘してきていますので、「えっ、そうなの?」と思った方はご参照ください。)

 そもそも現下の状況を考えれば、今日本が採るべき政策は、反緊縮、反新自由主義・反構造改革、そして反グローバリズム(脱グローバリズムと言ってもいいですね)という基本的な視点・姿勢に立っているものである必要があります。(具体的には拙稿「「ポスト安倍」に求められるものは何か、国民のために新首相がやるべきこと」(https://diamond.jp/articles/-/247682 )で記載したとおり。)しかし、今回の自民党総裁選ではそうした論点はほとんど出されませんでした。

 そうした中で、剥き出しと言ってもいいような緊縮、新自由主義、構造改革推進、グローバリズムの姿勢を示していたのは菅候補でした。もっともご自分で発言されていることをどこまで理解し、咀嚼できているのか?という点はありますが、とりあえずそれは置いておきましょう。

 それよりも菅候補が演説の最後に繰り返していた言葉があります。それは、「縦割り打破、既得権益を取り払う、前例主義を排し、規制改革を全力で進める」というもの。どこかで聞いたようなスローガン、そう新自由主義者・構造改革推進論者がよく使うスローガンそのものです。

 そしてこの手の「打破」とか「既得権益が」、そして「改革」といった言葉・表現が大好きな連中が少なからずいますね。論者や主義者まではいかない輩で、「ぶっ壊せ」的な表現を用いるのが好き、というかそれで心地よくなっているような輩です。(特定の「〜ぶっ壊す!」を連呼している政党だけではありませんよ。「ぶっ壊す」と言わず「打破」というのも同じですから。)

 ではその連中は、例えば「縦割り打破」の「縦割り」とは具体的には何のことであり、どのような問題が生じているのか、正確に理解しているのでしょうか?「既得権益」についてはどうでしょう?

 結論から先に言えば、理解しておらず、なんとなくのイメージで言っているだけ、ということだと思います。

 そもそも、「縦割り」とは各専門・専担の分野を持った、役所であれば所掌や所管ですが、そうした組織が並んでいることを指し、それ自体は特段悪い意味は含んでいません。その結果物事が進みにくくなったり、何かの緊急事態への対応が遅くなってしまった、そうしたものを「縦割り」の弊害と呼んでいますが、要は何か弊害が生じれば初めて問題のありやなしやが論じられるようになるわけです。

 一方で、「縦割り」であるということは、その専門・専担分野を理解し、その観点から今何をすべきか、今後何をすべきかを一番理解していると言えるわけです。したがって、それを理解しない政治家や他の組織、この場合は府省ですが、そうしたところが誤った主張をしてきたり、政策を進めようとしたりした時に、それを止めることが可能になるわけです。そしてそうした時に重要な役割を果たすのが各部門間の調整役を果たす組織で、「横割り」の組織とか、官房系統組織と呼ばれています。

 行政機関はこの「縦割り」と「横割り」の組織の組合せで上手に出来ているわけです。つまりは「縦割り」の弊害が生じないように、生じたとしても解消できるような仕組みになっているということです。

 では弊害が生じたとしたらそれは何が原因なのでしょう?経験上で言えば担当者個人の性格や議論の作法、もっと言えばいわゆるコミュニケーション能力の問題によるところが大きいように思います。要するに組織に還元される話はあまり想定されないということです。無論、中央省庁等改革以降、グチャグチャにされてしまいましたから、歪みは結構出ているやに聞きますが。

 となるとなすべきは「縦割り打破」ではなく、まずは「改革」の総括のはずですが、自らの政策(「他人」の持ち込みでしょうけど)に反対する奴は左遷だ!(一応「異動」とは言ってますが。)なんて暴君みたいなのが上に来たら、「縦割り」も「横割り」も機能不全に陥っていくでしょうね。(なお、「既得権益」関係は拙稿「規制改革は「緩和=善」ではない、岩盤にも意義がある」(https://diamond.jp/articles/-/169554 )をご参照ください。

 しかしそうしたものをイメージだけで支持する輩がいる、ホント困ったものですが、「日本をぶっ壊せ!」的な改革の主張をしている人って、これまでの人生で何か失敗や倒産・業績悪化等の憂き目に遭っている人が多いように思います。それをバネにして頑張ったりすればいいのですが、自らの境遇を上手くいっている人達がいるせいにして、そうした人達を逆恨みして「既得権益だ」と言ったレッテルを貼り攻撃するのみならず、T中H蔵だとか、ア○キンソンだとか、その手の連中による日本攻撃の尻馬に乗っかって一緒になって攻撃する、要はressentimentなんですよね。

 これでは本当に日本破壊は進むばかりなり。「無責任な改革派」、「改革莫迦」の誤った言説、イメージだけのなんとなくの主張、そしてそれを利用して私腹を肥やそうとする連中の言説にはくれぐれも騙されないように・・・

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【室伏謙一】無責任な「改革派」の言説に惑わされてはならないへの3件のコメント

  1. 大和魂 より

    碌でなしの金融屋たちが画策する国際社会におけるグローバル化の目的の最終段階がワンワールド社会の実現だよね。そのために日本については恐らく年次改革要望書を突きつけて要求しているのが実情だと考えるところです。つまりその発端となったのが悪夢の自民党小泉純一郎政権でして竹中平蔵なのにメディアは騒がずでした。ところで先日の総裁選のさなか菅義偉は 官房長官を何度も辞めよう考えたとかヌカシテいましたよね。それなら常識があれば普通なら自民党総裁などなるわけないですよね。だから菅はウソつきだと証明されたわけですから、小泉純一郎やら竹中平蔵やら橋下徹だとか小池百合子などと同じく尻の軽い惚けた同じ穴の狢だと言えるわけです。それでこれからグローバル化を促進させて腹心の河井夫妻の罪を保護するような予感がしてなりませんよ!まあ全てはこれから明らかになりますから見物ですね!

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  2. 染谷輝夫 より

    中卒の能力しかありませんので、皆様のご意見などを聞かせていただき、何かの役に立てることを模索しています。

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  3. 染谷輝夫 より

    中卒の能力しかありませんので、皆様の意見やお考えなどを聞かせていただき、私にできることを模索しています。

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