政治

2017年5月3日

【佐藤健志】「日本の防衛は万全だ」と閣議決定せよ!

From 佐藤健志

朝鮮半島情勢の緊張は、長期化の様相を見せはじめています。
北朝鮮はとりあえず、4月15日の太陽節(金日成誕生日)や、同25日の建軍節(朝鮮人民軍創設記念日)に
核実験を行うことはしませんでした。

よってアメリカとの軍事衝突へと決定的になだれこむ事態も、今のところ起きていません。
ただし金正恩が核兵器開発やICBM開発を放棄しないかぎり、いずれは衝突する恐れが強いと言わざるをえないでしょう。

その場合、真っ先に向こうの標的となるのはソウルですが、対岸の火事として片づけるわけにはゆきません。
難民の問題もさることながら、日本が攻撃を受ける危険性も決して否定できないのです。
アメリカと同盟関係にあるんですからね。

現にレックス・ティラーソン米国務長官は4月28日、国連安保理の閣僚級会合で「ソウルと東京への核攻撃の脅威は現実だ」と発言。
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017042900058&g=int

4月29日の午前5時30分ごろ、北朝鮮がミサイルを発射したときには、東京メトロが6時7分より、全線で運転を見合わせました。
着弾の恐れはない(ミサイルは発射直後に爆発した模様)ということで、10分後には運転再開されたものの、むろん初めての事態です。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170429-00000505-san-soci

ならばわれわれは、どう対応すべきなのか?

政府は4月21日、
Jアラート(全国瞬時警報システム)によって北朝鮮のミサイルに関する緊急情報伝達があった場合に国民が取るべき行動をまとめ、
内閣官房ホームページにある「国民保護ポータルサイト」に掲載しました。
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201704/21_a.html

というわけで、同ポータルサイトにある
「弾道ミサイル落下時の行動に関するQ&A」
というPDFを眺めてみたのですが・・・
http://www.kokuminhogo.go.jp/pdf/290421koudou3.pdf

どうも、お寒い内容です。

まず冒頭にはこうある。
「ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか。」
回答こちら。

北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、日本に飛来する場合、極めて短時間で日本に飛来することが予想されます。
例えば、平成28年2月7日に北朝鮮西岸の東倉里(トンチャンリ)付近から発射された弾道ミサイルは、
約10分後に、発射場所から約1,600km離れた沖縄県先島諸島上空を通過しています。
なお弾道ミサイルの種類や発射の方法、発射場所などにより日本へ飛来するまでの時間は異なります。

きわめて短時間で飛来するが、諸々の条件で飛来するまでの時間は異なる。
これって答になっているんでしょうか?
ミサイルの種類や発射方法ごとに、飛来するまでの予想時間を分類して列挙するくらいでなければ、
ちゃんとした回答とは呼べないと思うのですが。

だいたい、このQ&Aは
〈Jアラートによって北朝鮮のミサイルに関する緊急情報伝達があった場合に、国民が取るべき行動〉
をまとめたもののはず。

「ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか。」
という質問の立て方からしてハズしています。
「Jアラートの緊急情報伝達から何分ぐらいで飛来するのか」
が問われるべきなのに、こちらについては書かれていません。

これでは
「すぐに避難できるところに頑丈な建物や地下街などがあれば直ちにそちらに避難してください。」
(第3問「自宅(木造住宅)にいる場合はどうしたらよいでしょうか。」への回答)
とか言ったって、意味がないじゃないですか。

ミサイルがあと何分で来るか分からないとき、「頑丈な建物や地下街」にたどりつけるかどうか、どうやって判断するんですかね?

(×_×)着弾したあとにJアラートが出たりして(×_×)

ちなみに東京メトロによる運転見合わせは、ミサイル発射から約40分後に行われましたが、
Q&Aで紹介された事例(約10分で沖縄上空到達)に照らせば、これだって遅すぎるでしょう。

また第5問
「弾道ミサイルの情報が伝達されたとき、自動車の車内にいる場合はどうすればよいですか。」(※)
にたいする答はこうでした。

車は燃料のガソリンなどに引火するおそれがあります。車を止めて頑丈な建物や地下街などに避難してください。

(※)「情報が伝達されたとき」と書かれているのに注意。第1問はやはり的外れなのです。

しかるに続く第6問
「車から出ると危険な場合はどうしたらよいですか。」
の答にはこうある。

高速道路を通行している時など、車から出ると危険な場合には、
車を安全な場所に止め、車内で姿勢を低くして、行政からの指示があるまで待機してください。

おいおい、待機中に着弾して引火したらどうするんだ。
ついでに高速で下手に車を止めたら、追突事故にならないか?
ミサイルとは無関係に、ガソリンへの引火が起きるのでは・・・

そして最後の2問は以下の通り。
「問7 ミサイルが着弾した後は何をすればいいですか。」
「問8 近くにミサイルが着弾した時はどうすればいいですか。」

文脈から言って問7は、「ミサイルが遠く離れた地域に着弾した後は」という意味でしょう。
それはともかく、この二つへの回答が素晴らしい!

問7の回答こちら。
弾頭の種類に応じて被害の様相や対応が大きく異なります。
そのため、テレビ、ラジオ、インターネットなどを通じて情報収集に努めてください。
また、行政からの指示があればそれに従って、落ち着いて行動してください。

問8の回答こちら。
弾頭の種類に応じて被害の及ぶ範囲などが異なりますが、次のように行動してください。
・ 屋外にいる場合は、口と鼻をハンカチで覆いながら、現場から直ちに離れ、密閉性の高い屋内の部屋または風上に避難してください。
・ 屋内にいる場合は、換気扇を止め、窓を閉め、目張りをして室内を密閉してください。

あの、こう言っちゃ何ですが、
「弾頭の種類」には核弾頭だって含まれるんじゃないですかね?
ティラーソン国務長官も、核攻撃の脅威は現実だと述べたじゃないですか。

・・・そうです。
わが国においては、たとえ近くで核爆発が起きても、口と鼻をハンカチで覆って、風上に避難すれば大丈夫なようなのです!

(×_×)その前に、影になって蒸発しているよ(×_×)

ついでに「目張りをして室内を密閉して下さい」って、そのための素材はどこにあるのか?

そりゃまあ、
「核弾頭、ないし化学兵器弾頭だったら助かりません。通常弾頭でも、直撃の場合は助かりません」
と、本当のことを書くわけにはゆかないかも知れませんよ。

だとしても
「着弾後にできることは限られますし、深刻な混乱も予想されます。ふだんから、水や食料を一週間ぶんぐらいは貯蔵しておいて下さい」
ぐらいは書くべきじゃないですかね?

そのうえで
「行政の指示に従い、冷静にシェルターへと避難して下さい」
と書いてあるのなら、私としても評価したいところ。
しかし、ここに冷厳な事実がある。

NPO法人・日本核シェルター協会によれば、日本の人口当たり核シェルター普及率は、なんと0.02%なのです!!

ご参考までに、
スイスとイスラエルは100%。
アメリカは82%、
ロシアは78%、
イギリスで67%となります。
http://www.j-shelter.com

にもかかわらず安倍総理は4月14日、熊本市の陸上自衛隊健軍駐屯地で
「いかなる事態にあっても国民の生命、財産を断固として守り抜く」と訓示。
で、どうやって?
http://www.sankei.com/politics/news/170414/plt1704140025-n1.html

だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)

ただし偉大なるわが国には、国民の生命と財産を断固として守り抜く、奇跡の奥の手がある。

・・・アメリカに泣きつくんだろうって?
残念でした。

日本の防衛は万全であり、国民を守れないという指摘は当たらない。
そう閣議決定するのです!

d(^_^)\(^O^)/こいつは思いつかなかっただろう\(^O^)/(^_^)b

ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)産経デジタル「iRONNA」に寄稿しました。今村雅弘・元復興相の失言問題について考えます。
「『東北でよかった』発言を誘引した安倍政権の逆ギレ論法」
http://ironna.jp/article/6424

2)「現実は閣議決定次第でどうとでもなる!」。そんなお花畑丸出しの発想で戦後脱却を試みると、どんな結末が待っているかをめぐる体系的分析です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

3)保守と左翼・リベラルの双方が、お花畑丸出しの発想に陥っていることについての詳細な考察はこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

4)戦後の歴史は「お花畑を否定したつもりで、べつのお花畑にひたる」という、えんえんたる堂々めぐりだったのです。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)「国民議会の一貫した行動原理、それは困難を避けて逃げ回ることのように見受けられる」(194ページ)
エドマンド・バークの言葉です。わが国の政府にしても、あまり違いはないようで・・・

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

6)「ならばどうして、自分で自分を守ろうとしない? なぜ他国に依存したりしようとするのだ?」(186ページ)
トマス・ペインの言葉です。付け加えるべきことは何もありません。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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