政治

2016年4月29日

【施 光恒】「言葉は城なり」

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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なぜ日本の実質賃金は1997年を絶頂に下降を続けているのか?
なぜ20年前の日本人よりも買えるものの量が減っているのか?
なぜ日本人の貧困化が進んでいるのか、その実態を明らかにする、、、

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おっはようございまーす(^_^)/

今日から五月の連休ですね〜。皆様、いかがお過ごしですか。

このところ、NHKの大河ドラマ「真田丸」にはまっています。ここ数年、大河ドラマはとんとご無沙汰だったのですが、子供の頃、真田幸村(信繁)ファンだったこともあり、見始めたら熱中してしまいました。
f(^_^)

特に、草刈正雄が演じている真田昌幸(信繁の父)がとても魅力的です。草刈正雄は、NHKが1985年から翌年にかけて放映していた「真田太平記」というドラマにも出演し、そのときは、幸村を演じていました。当時、中学生だった私は、こちらも結構、熱心に観ていました。

今回、「真田丸」に熱中してしまい、それだけでは飽き足らず、つい、昔のドラマの原作である池波正太郎の小説『真田太平記』も読み始めてしまいました。原作は読んだことがなかったので。

そしたら、こちらも期待を裏切らず面白い! 

しかし困ったことに、『真田太平記』は結構な長編小説で、新潮文庫で全12巻もあります…。いかん、年度始めの忙しいときに、長編小説など読んでいる場合ではない…などと思いつつも、ついつい手を出し続け、現在、9巻目に突入…。

すっかり、頭の中が、戦国時代となっております。
( ー`дー_)イカニモ

ところで、『真田太平記』は、話の本筋も面白いのですが、池波正太郎がところどころに差し挟むエピソードも、また興味深いのです。

大河ドラマの「真田丸」のほうは、それほど忍者は出てきませんが、『真田太平記』は、真田家の忍者(「草の者」)の活躍も大いに描かれています。

そこで、次のような描写がありました。

真田の忍びの者は、諜報活動のため他国にしばしば潜入しますが、薩摩だけは、それが大変難しく、思うようにいきません。なぜなら、「言葉がまったく異なる」からです。いくら熟練の忍びの者が姿を変えて薩摩に潜入しても、「言葉を発すれば、たちまち他国者と知れてしまう」のです。

確かに、現代でも、同じ九州の福岡出身の私からしても、鹿児島の方言は、アクセントなど独自色がとても強いように感じます。鹿児島出身以外の人々が、これを真似るのは非常に難しそうです。

江戸時代に幕府の諜報活動を恐れた薩摩藩が、部外者には理解できず真似もしにくいように、薩摩方言の独自化を人為的に図った、などとまことしやかに言われることもあるそうです。(さすがにこれは真実ではないでしょうが)。

また、こちらはわりとよく知られた話ですが、第二次大戦中、米国に暗号を解読されて困った日本の海軍や外務省は、一時期、薩摩弁を暗号代わりに使用していたそうです。米軍は、なかなか理解できず、解読に手を焼いたということです。

鹿児島出身の学生に聞いたのですが、現代では、「振り込め詐欺」対策に、鹿児島方言が有効だと言われることもあるそうです。振り込め詐欺っぽい怪しい電話がかかってきたら、対応を方言に切り替えてみる。もし相手が戸惑うかどうかで、振り込め詐欺かどうかすぐわかるというわけです。(まあ、これは鹿児島弁に限らず、他の方言でもいえそうですが)。

こう考えると言葉は、一種の安全保障に役立っているわけですね。いわば、「言語は城なり」といったところでしょうか。

実際、明治時代の教育者・西村茂樹(1828-1902)は、言語や文化などは国の独立の根幹であるとし、言語の重要性を説き、言語を城郭に例えています。

少し長いですが、引用してみます(西村茂樹『日本道徳論』岩波文庫、昭和10年。最初に刊行されたのは1887年(明治20年)。下記の引用文は、尾田幸雄氏による現代語訳を参照した。西村茂樹/尾田幸雄(現代語訳)『品格の原点――いまなぜ「日本道徳論」なのか』小学館101新書、2010年)。

「およそ国の独立というものは単一の元素から成り立っているものではない。種々の元素が集合し、独立の形体や性質を作り出しているので、例えば、言語、文字、風俗、宗教、思考、法律、文学などなど、すべてが国の独立を支え、形成する元素なのである。

例えば、人間の形体は二十個の元素が集合して初めて完全となるようなものである。もしその中から幾多の元素を除去すれば、人体はその完全を保つことができず、あるいは変性し、あるいは死に至るであろう。また城郭のようなものである。三重五重の塀や垣根で本丸が固く守られているのである。

もし言語や文字などの元素を除去してしまえば、独立と不独立との境は、ただ政治上の一元素に止まることになる。自分から独立のための元素を剥ぎ取り、その塀や垣根を撤廃して本丸だけを守ろうとするのは不可能なのである」。

その後、西村茂樹は、オランダやロシアの例を引きつつ、欧州では、どの国も、自らの言語や風俗を大切にし、それを失わないように努めていると指摘します。

そして、次のように、続けます。

「わが国では言語文字が一千余年にわたって一定しているということが、国の維持に多大な貢献をしている。そうであるのに、近年になって、この言語や文字を改めようとする者がいると伝えられている。まことにその本意がどこにあるか分からない」。

まさに、そうですね。明治にも「言語や文字を改めようとする者」がおりましたが、最近の日本では、「グローバル化!グローバル化!!」ということで、あろうことか政府が率先して、英語化を押し進めています。少し前にも、ニュースで報じられていましたが、東京工業大学では、ほとんど日本人ばかりの会場で、わざわざ学長が英語で式辞を述べたそうです。

その本意がどこにあるのかは、まさによくわかりません。近い将来、どうやら事実上の移民受け入れもはじまりそうですし。
(_・ω・`)

西村茂樹が明治時代に見抜いたように、言語や文化をおろそかにすることは、城郭の塀や垣根を撤廃して、本丸を丸裸にするようなものです。そう遠からず、日本という国家の独立は、残念ながら、危うくなるのではないでしょうか。

ちょうど、大坂冬の陣ののち、外堀や内堀を埋められてしまった大阪城が、真田信繁らの大奮闘もむなしく、結局、夏の陣では落城を余儀なくされてしまったように……。

あれれ、また真田の話になってしまいますた。

駄文を長々と連ね、失礼つかまつったでござる
<(_ _)>

〈施 光恒からのお詫びとお知らせ〉
●お詫び
前回の私のメルマガ記事(2016年4月15日)に、私の事実誤認に基づく誤った記述がありました。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/category/seteruhisa/

記事の8〜9段落目で、志賀櫻氏の著書『タックスヘイブン――逃げていく税金』(岩波新書、2013年)を取り上げ、この本の中に引用されているグラフ「申告納税者の所得税負担率(平成22年度)」に言及しました。そして、「このグラフによると、日本の所得税負担率は、所得金額が一億円を超えると不思議なことに低下していっています」と述べたうえで、その低下の理由について、「おそらくタックスヘイブンなどを利用し、税金を巧みに逃れる者が増え、所得税負担率は下がってしまっている」(12段落目)からだとしました。

この12段落目の記述は、正しくありませんでした。一億円を超える高額所得者の所得税負担率が低下している理由は、主に、高額所得者の所得の多くを占める株式からの配当や譲渡所得に対する税制上の優遇措置のためでした。

志賀氏の著書のなかには、正しくそれについての記述もあったのですが、私が誤解してしまいました。

メルマガ読者の皆様、および参考図書として挙げた本の著書である志賀櫻氏には、大変、ご迷惑をおかけいたしました。謹んでお詫び申し上げます。

今後、このようなことのなきよう、気を引き締めて参りたいと存じます。

なお、12段落目の記述「つまり所得金額が一億円を超えると、おそらくタックスヘイブンなどを利用し、税金を巧みに逃れる者が増え、所得税負担率は下がってしまっているのです」は、少し長くなりますが、次のように修正したいと思います。

(12段落目に以下を挿入)
「累進課税の理念に反するこうした逆進性が生じている理由は、高額所得者の所得の多くを占める株式からの配当や譲渡所得については、税制上の優遇措置があるためです。グラフの低下は、その効果によるものです。もちろん、こうした不公平は国会でしばしば指摘され、税制改正の懸案事項にもなっています。

それを踏まえたうえで、志賀氏は、このグラフの表題が「申告納税者の所得税負担率」であることに注意を促し、次のように記しています。

「つまり、税務署に所得金額を申告したベースでは、こういう負担率になるということである。これは裏を返せば、正しく申告していなければ、こういう負担率はもっと低くなっているということである。

実際、課税当局は、所得金額を実際よりも低く申告して課税を逃れている高額所得者が多数存在すると見ている。そうした高額所得者たちの税負担率は間違いなく、このグラフの示す数字よりも格段に低いはずである。

それは租税回避によるものか、ひどい場合には脱税である。しかし、その実態を正確に把握するのはきわめて難しい」。

そして、志賀氏は、こうした租税回避や脱税を助けるさまざまなカラクリがあり、そのカラクリの核心部に「タックスヘイブン」を利用した課税逃れがあると指摘しています。」

●お知らせ
5月13日(金)に、川久保剛、星山京子、石川公彌子の各氏の共著『方法としての国学――江戸後期・近代・戦後 (叢書新文明学3 )』の刊行記念のトークイベントに、ゲストとして参加します。19時30分からジュンク堂池袋本店です。詳細は下記のリンク先をご覧ください。
http://honto.jp/store/news/detail_041000018301.html?shgcd=HB300&extSiteId=junkudo&cid=eu_hb_jtoh_0411

ーーー発行者よりーーー

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【施 光恒】「言葉は城なり」への2件のコメント

  1. 稲美弥彦 より

    言語の事を改めて考えると電子構文(プログラム)で英語圏(事実上、アメリカ。)が1人勝ちになっているのは英語を大量に作成しているからだとされているようだ。逆にロシア語やペルシア語等の非ラテン文字が中心になればアメリカの情報技術分野(IT)の1人勝ちは間違いなく終わります。アメリカに取ってはキリル文字は結構厄介らしく、英語などのラテン文字にとは似て非なる文字なので彼らは手を焼いていおり、КГБが優秀だと言われたのはその為だとされている。だから欧州連合(ЕС)にはラテン文字を入れさせるのはアメリカが盗聴しやすくさせる為である話は実際にあります。同時にアメリカがイスラムを理解できないのはアラビア語やペルシア語の文字とも関係あるそうです。だから、母国語を大事にしながら、英語やフランス等のラテン文字以外の言語を探るのは重要だと思います。

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  2. たかゆき より

    人は石垣 人は城 ♪国を守るのは 所詮は 人 かと、、、お上が 人を瓦礫にしようとするこの国とは、、きっと 全球二重丸 なのだ ♪

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