日本経済

2019年12月21日

【施 光恒】「安いニッポン」の今後

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

おっはようございまーす(^_^)/

一週間ほど前の『日本経済新聞』の特集記事「安いニッポン」((上)2019年12月10日、(下)2019年12月12日)がいくつかのテレビなどでも取り上げられ、大きな話題になっていましたね。

一部引用してみます。

*****
「…マーサー(注、米系人事コンサル大手)が世界129カ国と中国19都市を対象に実施する「総報酬サーベイ」を基に、2007~17年の報酬を分析してみよう。システム開発マネジャーの場合、07年を100とすると17年の年収は日本は99と微減。一方、ベトナムは145、中国・上海は176、タイは210に達した。

新興国は経済発展で報酬が伸びた面もあるが、先進国でも米国は119、ドイツは107に増えた。

実額ベースではどうか。17年の報酬中央値は日本が約10万ドル(1090万円)。シンガポールや中国・北京より安く、タイも7割近い水準に迫る。…」
(安いニッポン(下) 「香港なら2倍稼げる」 人材流出 高まるリスク)(『日本経済新聞』(2019年12月12日付))
*****

上記の日経の記事にあるように、多くの業界で日本の実質賃金は伸びていません。全体で見ても、1997年ごろをピークに大幅に下落しています。

例えば、別の東京新聞の記事によると、1997年比で日本だけ減っており、それも8.2%も低下しています。(残業代も含めた時間当たりの賃金の各国比較。OECDの数値による)。

「<働き方改革の死角>日本、続く賃金低迷 97年比 先進国で唯一減」(『東京新聞』2019年8月29日付)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201908/CK2019082902000151.html

ひと世帯当たりの平均所得も、日本は1994年をピークに大幅に下がっています。

厚労省の「国民生活基礎調査」によりますと、世帯の平均所得は1994年のピーク時には664.2万円でしたが、2017年には551.6万円となりました。約17%も低下しています。

物価についても日本は全然上昇せず、いつの間にかアジア諸国と比べてみても、さまざまなものが割安に感じられるようになってしまいました。

例えば、ディズニーランドの入場料や、ダイソーの価格です。
日経の記事を引いてみます。

***
「海外から見た日本のモノやサービスの割安さが際立っている。
日本経済新聞は世界のディズニーランドの大人1日券(当日券、1パークのみ、10月31日時点)の円換算価格を調べた。東京は7500円でカリフォルニア(1万3934円)の半額ほど。パリ(1万1365円)や上海(8824円)と比べても安さは群を抜く。」

「…海外26カ国・地域でダイソーを展開する大創産業(広島県東広島市)。日本では「100円ショップ」として知られるが、同じ商品が米国では約162円、ブラジルでは215円、タイでは214円だ。中国で生産した商品も多いが、その中国でも153円する。…」

(「安いニッポン(下)価格が映す日本の停滞 ディズニーやダイソーが世界最安値」(『日本経済新聞』(2019年12月10日付))
***

しかし、こうした日本の現状は、新自由主義にかぶれている財界人や投資家、政府関係者は、それほど危惧すべきことではなく、むしろねらいどおりなのかもしれません。

日本の実質賃金が他国に比べて下がった結果、ある意味、「国際競争力が増した」とも言えるのですから。安い人件費で生産に当たれるわけです。

賃金の低下は、1990年代から進めてきた雇用制度などの改革がうまく行き、非正規雇用も増え、「フレキシブルな」労働力が使えるようになった結果ですし。日本がここ20余年取り組んできた構造改革の帰結なのです。

物価が上昇せず、いつのまにか日本がアジアのなかでも割安感のある国になったことも、新自由主義にかぶれた財界人や投資家にとっては、それほど深刻視すべきことではないでしょう。

相対的に金持ちになった外国人を大勢、日本に呼び寄せ、彼らにいろいろと買ってもらえばいいわけですから。

「インバウンド重視」「観光立国」の旗を掲げる最近の日本の「成長戦略」からすれば、日本の物価が相対的に安くなったことは、歓迎すべき事柄だと言えるでしょう。政府は、2020年には4000万人、2030年には6000万人の外国人観光客を呼んでくるという目標を掲げています。

これらの実現のためには、日本の物価が安いことはもってこいのはずです。

しかし、普通に暮らしている我々日本の一般国民にとっては、当然ながら、賃金が下がり続け、物価もアジアのなかでさえ割安感が出てきた日本の現状は、大いに困ったものです。

いまに、日本人は、海外から資源などモノが買いにくくなっていくでしょう。日本人の賃金は上がらず、その一方で、輸入品などなかなか手が届かなくなってしまう恐れがあります。

また海外の資本が、日本の土地や企業、施設などを次々と買収していく事態も多くみられるようになるでしょう。

日本は、発展途上国に落ちぶれ、本当に否応なく「インバウンド」にしか頼れなくなる国になってしまいそうです。

やはり、どうにかしないといけません。経済政策の進め方を、根本から変えなければなりませんね。日本の一般国民を豊かにするまさに「経世済民」路線をとらなければなりません。

来年は、「経世済民」路線が大復権する年にしたいですね。

長々と失礼しますた…
良いお年をお迎えください。
<(_ _)>

〈施 光恒からのお知らせ〉
柴山桂太さんたちと行っている共同研究の公開シンポジウムを今週末(2019年12月22日(日))に福岡市で開催します。

お近くの方はぜひお越しください。詳しくは、下記のリンク(シンポジウムのチラシに飛びます)をクリックしてみてください。
https://drive.google.com/open?id=1NE528h4DH4DwEyb2wvBaXo8ZW3lZ-WRy

関連記事

日本経済

【三橋貴明】全道ブラックアウトと発送電分離

日本経済

【施光恒】気持ちが前向きになる話とは…

日本経済

【三橋貴明】介護分野の外国人労働者受入が始まる

日本経済

【上島嘉郎】何のための「改革」か

日本経済

【三橋貴明】北海道の復旧、復興、発展のために(後編)

【施 光恒】「安いニッポン」の今後への4件のコメント

  1. たかゆき より

    fool japan poor japan cheap japan

    good panpan

    国民の過半が
    衰退途中国 日本を 支持する 今の状態

    はたして それの 何が
    いけないのか しら ん

    「バカな お前ら  もっと勉強しろ」
    「さらに 頑張って もっと上を目指せ」

    なんて 言われたくないな、、 

    ハンパモンの 小生は。。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. 大和魂 より

    未だに大半の国民が、舛添要一同様、平和ボケしたカスばかりですからね。こんなのが選挙したってハナシにもならないわけですよ。それに、それを主導している低次元のインテリ連中と結託してバカ騒ぎしている番頭の菅義偉こそ腐敗の根源なので降ろすべきですよ!

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  3. F-NAK より

    低賃金化(≒格差社会化)にはもうひとつ嬉しい点があります(特に安倍政権にとって)

    漫画「闇金ウシジマくん」に、こんなエピソードがあります。
    ウシジマくんが債務者を追い込んで、その家族を破綻させるのですが、
    その後に、ウシジマくんは少しだけ彼らに手を差し伸べるのです。
    すると、債務者たちはウシジマくんに従順になってしまうのです。

    つまり、幼児教育無償化、氷河期世代支援などと銘打てば、何故か
    「そんなのが必要な状況を作ったのはお前らだろ!」という声は上がらず
    「ありがとう、安倍政権」という声の方が強くなってしまうのと同じ現象です。

    そして、最近話題になっている「桜を見る会」や「伊藤詩織さん」の事件も
    (どちらも真相は闇の中で、報道内容は当てになりませんが)
    仮に真相が安倍政権側に全面不利なものであっても、
    貧困層の生活に直接影響のない事件なので、支持率にほとんど影響を与えないわけです。
    むしろ、この件で騒いで視聴数を稼いでいる側が嫌われるでしょう。

    あらゆる問題を「貧困層 vs ○○」という対立構造に持っていき、うやむやにできるわけです。
    大阪での維新の会なども同様の手口ですね。

    この手口は貧困層が増えるほど効果を増します。
    安倍政権や維新の会は、格差社会という最強の支持基盤を手に入れたわけで、
    これを手放すはずがありません。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  4. 神奈川県skatou より

    かにむかし、という昔話、最近ではサルと和解するらしいですね。
    自分の知ってる「かにむかし」は、木の上で柿の実を食べるサルが、「自分も柿を食べたい」と言う地面のカニに、まだ青くて堅い柿の実を投げつけて殺してしまう。その潰れた身体から子ガニがたくさん生まれてきて、親のかたき討ちをする、という話です。

    自分の壮大な逃げは、自分のITサラリーマン人生、1996年からこの二十数年を、どうにもならない残念なものとして、この先も取り返すめども無く、今努力を傾けるのは、子供、子孫の幸せ、つまり子供が幸せになることが、この日本(政府)に対する、最大のかたき討ちだと思っています。
    それは自分個人からの逃げでもあります。

    そんな隠された絶望感に、今の日本は一遍の光さえ射しません。
    「耐えがたきを耐え」で、次世代の幸せな顔をひたすら願うのみです。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】決して許してはならない凶行

  2. 日本経済

    【三橋貴明】聖徳太子の英雄物語

  3. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】成田悠輔氏の「老人集団自決論」が論外なのは、...

  4. 日本経済

    【室伏謙一】「金融緩和悪玉論」を信じると自分達の首を絞...

  5. 日本経済

    【三橋貴明】聖徳太子の英雄物語

  6. 日本経済

    【三橋貴明】政府債務対GDP比率と財政破綻は関係がない

  7. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】『2023年度 国土強靱化定量的脆弱性評価・...

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【3月14日に土木学会で記者会見】首都直下地...

  9. 日本経済

    【三橋貴明】無知で間違っている働き者は度し難い

  10. 日本経済

    【三橋貴明】PBと財政破綻は何の関係もない

MORE

タグクラウド