日本経済

2019年9月3日

【室伏謙一】足して合わせれば良くなるという考え方が日本を衰退に導く①-省庁合併も緊縮のためのもの-

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 

 先々週、外国人コスプレイヤーを京都に招いて地域の観光資源を発見、発信してもらおうという話が経産省の事業として採択されたというニュースがちょっとした話題になりました。ご存知の方もいるのではないかと思いますが、これって京都の観光資源や魅力が自分たちでは分からないので外国人に、しかもコスプレイヤーに頼もうというのと同じであり、誇り高き京都をバカにしているのみならず京都の人のプライドを大きく傷つけるものだと思います。いや別に外国人コスプレイヤーとその仲間の日本人が勝手連で、地域の人の迷惑にならない程度にやるというのならば、どうぞ御勝手に、なんなら平安時代の装束でも着て練り歩いてくださいなということでおしまいですが、国費を投入する話ではありませんね。ちなみに国費は補助率を2分の1とする補助金で、総額は3000万円です。事業選定の事務局はJTBだそうです。あまり大きな金額ではありませんが、国費は国費。しかも実際に選定したのはJTBだとしても事業自体は経産省の事業。事業自体に、国の政策目的に合致した良いものであるとのお墨付きを与えたようなものです。

 

 経産省はこの手の意味不明な補助金を毎年度、手を替え品を替えで、幾つも措置してきています。で、効果はあったのかって?それは「あったことになっている。」ということでしょう。積み上げれば毎年度数十億から数百億が無駄金として垂れ流されている、と言っていいでしょう。そのお金を他に回せば・・・そうだもっと無駄があるはずだ、そうした無駄を徹底的に無くしていけば足りないところに回せるではないか!という発想は単なる緊縮脳。この手の本当の無駄は無くして正しい方向に使うというのはいいとして、他の必要だが足りないところに回すために無駄を探すというのでは本末転倒で、そうこうしているうちに全ての事務事業が「無駄とレッテルを貼られる恐怖症」に陥ることになりかねません。それを公開の場で大々的にやって、軽くその手の恐怖症に陥れたのが民主党政権下での「事業仕分け」だったわけですが、それもこれも全ての元凶の一つはといえば、緊縮推進の手法である行政改革です。

 

 ということでやっと本題に入ります。(前段が長くてスミマセン。どうしてもこのコスプレ事業に補助金を出すという前代未聞摩訶不思議な話は取り上げておきたかったので。)

 

 行政改革というと皆さん何が思い浮かびますか?その大規模なものが中央省庁等改革です。

 

 中央省庁等改革は、要は俗に省庁と言われる国の行政機関を、その地方の出先機関も含めて整理統合しようというもの。その結果いくつかの省庁が一つの省にまとめられました。私が昔在籍していた総務省も、旧総務庁、旧郵政省及び旧自治省に旧総理府の一部の部局と一部の外局が統合して誕生したもの。今年話題になった厚生労働省も、その名前のとおり旧厚生省と旧労働省が統合して出来たもの、同じく話題になった文部科学省は旧科学技術庁と旧文部省が統合されて出来たものです。そしてこれは、省庁の数を統合を通じて減らせば業務が効率化し、無駄がなくなり、歳出の削減につながるという考えに基づくもの。つまりは緊縮財政の一環として行われました。

 

 しかし、その内実はと言えば、人事は旧省庁の人事系統が残り、いまだに旧省庁間の調整を同じ省内でしなければならないことがあり、官房には旧省庁分の係が残り、次官級ポストは旧省庁でたらい回しのはずがポスト争い、更には局長級ポストまでその戦線は拡大しつつあり。事務事業にしても見直しが行われはしましたが、新しい事務事業が追加されることは当然あり、こちらも当然新たな組織やポストを創設しなければなりませんが、国の行政機関の組織はスクラップアンドビルドが原則ですから、省内のどこかの部なり課なりを潰してそれを振り替えなければなりません。しかしそれは同じ旧省なり旧庁なりの範囲内で行われるとは限らず、そこでも省内で駆け引きが行われます。私が1年生の時に所属していた旧総務庁系の統計局統計基準部という組織は、旧自治系で新たな部を創設するに当たり、その人身御供にされました。もちろん部がなくなっても同時に所掌事務がなくなるわけではないので、局長級の政策統括官の所掌事務にくっつけることで生きながらえていますが。(しかし政策統括官の所掌事務は訓令で変更が比較的簡単に出来てしまうので、組織が今後どんな風になってしまうのか分かりません。先輩が、「局長級ポストという撒き餌につられて組織を潰された」と憤っていました。)

 

 ということで、話が少々細かくなりましたが、緊縮のための行政改革、中央省庁等改革は、上手くいっていない、かえって現場を混乱させて負担を増やしているというお話でした。「足して合わせれば〜」なんて本当乱暴で稚拙な発想ですね。次回はもう一つの「足して合わせれば〜」の例である市町村合併を取り上げたいと思います。

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【室伏謙一】足して合わせれば良くなるという考え方が日本を衰退に導く①-省庁合併も緊縮のためのもの-への2件のコメント

  1. たかゆき より

    最大の 無駄

    それは日本「国」「政府」が存在すること

    国がなくなれば 政府も無用

    行政改革やら 身を切る改革なんぞに

    悩まされることも なし。。

    それこそが 戦後レジームの最終形態

    で ございませう ♪

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  2. 大和魂 より

    それにしましても我が国のトップによる意味不明の社会保障強化発言には呆れてますし、何よりそれに仕える役人の皆さんが、お気の毒でなりません。またそれでいて乏しい結果でのトップ三人がまたもや留任ですから、狂信的でみっともないかぎり。これ歴史からの山県有朋や大久保利通の構図と同じ、あるまじき見苦しい行為ですよ。もう退陣でしょ。

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