日本経済

2019年3月20日

【藤井聡】大蔵省から「財務省」に転換した時、平成デフレーションは決定づけられた

From 藤井聡(京都大学大学院教授)

今、政府はプライマリーバランス(PB:基礎的財政収支)の
黒字化目標を掲げており、
その目標通りに、増税と支出カットが
毎年繰り返され続けてきました。

その結果、政府が市場に供給するマネーが
大幅に縮減し、デフレが継続し続けています。

そして、そんなPB目標を導入し、
それに忠実に財政が運営されているのは、
財務省の設置法に、
「財務省は、健全な財政の確保・・・を任務とする。」

と明記されているからだ、
というのは、先週ご紹介したところです。
https://38news.jp/economy/13344

つまり、財務省の役人たちは、
国民経済が疲弊しようが、
国勢が衰弱しようが、そんな事に何も気にせず、
真面目にこの法律に記載されたとおりに、
「政府の財布」の健全化を目指し続けてきたわけで、
その結果が、20年以上にも及ぶデフレだったわけです。

では、そんな理不尽な設置法がいつ作られたのかというと・・・
財務省が、2001年に誕生した時なのです。

それ以前はどうだったかというと、
財務省は「大蔵省」という名称の省でしたが、
その設置法には、そんな任務は記載されていなかったのです。

大蔵省の設置法は、次のようなものだったのです。

「第三条 大蔵省は、
左に掲げる事項に関する
国の行政事務及び事業を
一体的に遂行する責任を負う
行政機関とする。
一 国の財務
二 通貨
三 金融
四 証券取引
五 造幣事業
六 印刷事業」

つまり、大蔵省の設置法には、
「健全な財政」なぞという文言は一切無く、
ただ、仕事の内容が淡々と書かれていただけだったのです。

だから、日本は1998年からデフレになりましたが、
その直後から2000年頃までは
小渕内閣が徹底的な財政政策を展開していたのです。

大蔵省はそれを無理やり阻止することは
しなかったわけです。

しかし、2001年に財務省が設置されてから、
そうした財政出動はほとんど無くなってしまいました。

例えば、公共事業関係費に着目すると、
「シーリング」と言って、
機械的に当初予算を削るようになったのは、
財務省が設置された2001年からでした。

トータルの政府の財政を見るために、
政府の民間への資金供給量全般を確認すると、
やはり、2001年の財務省設置以降、
激しく、右肩下がりで急落していく様子が、
このグラフからも見て取れます。

その経緯を詳しく見ると、
次のような事実が明らかになります。

まず、2001年に健全な財政を確保するための省庁として、
財務省が設置されます。

すると、その翌年2002年には、
プライマリーバランス目標が導入されます。

その後は、その目標にそって、
機械的に財政支出が抑制され続け、
政府の資金供給量は減少の一途を辿っていきます。

しかし、2008年にリーマンショックが勃発し、
事実上、プライマリーバランス目標は撤回されます。

ところが、ショックの翌々年の2010年には、
再びプライマリーバランス目標が導入されます。

その後、2000年代と同様、
政府の資金供給量は減少し続けていきます。

つまり、
財務省が設置された途端に、
設置法で明記された「健全な財政」を機械的に確保すべく
プライマリーバランス黒字化目標が導入され、
リーマンショックによって一時的に解除された時期以外は、
ひたすらにその目標が守られ、
政府の市場への資金供給量は、
一貫して縮減されてきたのです!

これこそ、日本がデフレ脱却出来な基本的な理由です。

筆者は、デフレ脱却を果たすために、
PB目標を撤廃すべきだ、という
「PB亡国論」を唱え続けてきましたが、
実はその背後には、
「財務省設置法」という問題があったわけです。

したがって、20年以上も続く「平成デフレーション」は、
2001年に、大蔵省が財務省へと衣替えをした瞬間に、
決定づけられていた
わけです。

だからデフレ脱却を果たすためには、
財務省の設置法を、
大蔵省の設置法と同様に、
ただただ「財務省の仕事の内容は、国の財務である」という旨を
明記するだけのものに修正する等の対応が必要です。

あるいは、健全と言う言葉を用いるのなら、
財務省の主任務を「健全な財政の確保」ではなく

「健全な国民経済に基づく健全な財政の確保」

あるいは

「国民経済に基づく財政基盤の健全性の確保」等

へと修正すべきなのです。

以上の筆者の意見に賛同される国民は是非、
この問題を世論において、
そして国会において取り上げて頂いて、
優秀な財務省の官僚の皆さんが、
もうこれ以上、国民の暮らしを毀損することなく
日本国民のために気持ちよく仕事ができる環境
作って差し上げて頂きたいと思います。

追伸:
こうした日本の政治、経済についての本質的問題は、
筆者が編集長の「表現者クライテリオン」で
徹底的に議論を積み重ねています。
是非、一人でも多くの皆さんに、
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【藤井聡】大蔵省から「財務省」に転換した時、平成デフレーションは決定づけられたへの9件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    >以上の筆者の意見に賛同される国民は是非、
    >この問題を世論において、
    >そして国会において取り上げて頂いて、
    >優秀な財務省の官僚の皆さんが、
    >もうこれ以上、国民の暮らしを毀損することなく
    >日本国民のために気持ちよく仕事ができる環境を
    >作って差し上げて頂きたいと思います。

    ああ素晴らしい。なんと素晴らしい。
    実に核心を突く、ビジョンへの道筋(JourneyMap)でしょうか。

    >「国民経済に基づく財政基盤の健全性の確保」等

    >へと修正すべきなのです。

    カネは天下の回りもの、よろしく、ぜひカネを循環させるその連環の一部としての租税と公的資本形成などの支出を省の目的としてほしいものです。

    目的(WHY)が正されて、目標(WHAT)が確定し、あとはどのように(HOW)でも、そのゴールへと、日本の優秀なエリートならば、必ずやたどり着いてくれるでしょう。

    そう筋道を正すことこそ、政治かと思われます。

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  2. ぬこ より

    ノーパンしゃぶしゃぶの裏はアメリカですよね。
    その後の省庁再編や国公立大学民営化等の所謂ネオリベ路線ですよね。
    よく保守派が小さな政府路線って言う人が居るけど、矛盾してるよね。
    共和党はまともだとか言う馬鹿。
    コミンテルンは批判するけど国際金融家はノーマークで、
    アメリカの東アジア分断や搾取政策に気づいた日本人を再度親米に寄せようとするエセ工作員紛い。
    あと、国際金融家は批判するが安倍総理を応援する、名を捨て実を取るタイプの亜流工作員。

    リフレ派がウォール街の為に動いてるのは解り易いけど、その実態をまるで触れずに国内の失政だけでこの20年を語るのは余りにも不自然。
    三角合併やビス規制でアメリカに食い殺され家畜化された事を知らない訳もなくね。
    竹中は批判するがゴールドマンは語りませんよ!!的な亜流が多いこと多いこと(笑)

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      1. 汎損・フォード より

        >裏はアメリカ

         浦和ヨコハマ?アリエナーイ?・・・ つい詰まらないことが浮かんでしまった埠頭なる千葉神奈川で合ってる?どうでもいい無駄話。

        考えると、あれが事件としてメディア報道に乗せられて、知らぬ間に?エスタブリッシュメントに因るエスタブリッシュメントの為に故意に財政法4条を書き加えたってことなんでしょうか。そういう筋書が初めから在ったってことなんでしょうか。アメリカに加担した日本人も居るわけですね。そしてそれは代々受け継がれている。小泉Jr.進次ケートしかりゴキブリ竹中しかり・・・・。
        そういえば、事業仕分けってのも公開生(ビール?)劇場でした。あの頃は自分も乗せられた気がしてならないが、あれも最初っから筋書が書かれ国民に均衡財政史観を植え付ける為の脚本に沿ったタレント蓮舫を持ち上げた激情型演出東芝日曜劇場だったのでしょうか。まんまと騙されちまった。もう騙されないぞっ!パソナークロー前原にも。延長ルール政権にも。
        以上、浮かんでしまっただけ。 

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  3. たかゆき より

    初期設定

    誰が 何のために
    大蔵省を解体し 
    財政法第4条を 組み込んだのか?

    日本人が 日本人の ため??

    ちゃうでしょ。。

    財政法第4条を排除できるとき

    それは

    自主憲法を制定し
    主権回復するとき で ございます ♪

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  4. たかゆき より

    「まるぞう備忘録」 より 

    (引用開始)

    当時、大蔵省主計局法規課長でありこの法律の制定に関わった平井平治氏はこのように述べております。

    「戦争危険の防止については、戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、わが国の歴史をみても公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである、……公債のないところに戦争はないと断言しうるのである、従って、本条(財政法第4条)はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものであるともいいうる」

    (引用終わり)

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  5. たかゆき より

    防波堤として

    赤い津波を 防ぐために
    冷戦時代なら それなりの国力 強度を
    日本に求めたでせうが、、

    冷戦終結 グローバリズムの現代
    日本の国力など 邪魔なだけ

    というわけで

    安倍某 優秀な財務官僚さま 等々の
    売国奴を 駆使して

    この ザマで ございます ♪ 

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  6. 汎損・フォード より

    >健全性の確保

     健全な肉体に健全な精神が宿る と言いますよね。
    政府のBSを考える場合、宇宙の存在理由と同じように国債を借金と表現しては元も子もないと言える気がしてなりません。
    財務症なんてある種、一精神指標であり、健全な肉体であれば健全な財務として自ずと顕れて然るべきでしょう。であればノーパンしゃぶしゃぶだって問題無いのです。お店だって潰れなくて済んだのです。財務と商して貨幣をくすねるからいけないのです。またも支離滅裂。
    数字で肉体がコントロール出来ることはないのです。長島さんだっていちいち電卓叩いて計算しながら守備率打率を上げてたことは無い筈です。またもはちゃめちゃ。失礼しました。

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      1. 同一人物 より

        >守備率
         とは言わないですかね。防御率だと投手だし。間違えてる気がしただけです。野球は甘利いやほぼ詳しくもない。失礼しました。

        ゴールドマン・サックスってGPIF年金運用委託先のひとつだったんですね。ワシはまたサックス奏社かと思ってたントン。なんては思わないけど。
        最近も首相は外交だか外遊だかでデフレは脱却せずに日本を脱出しましたけど、そういう委託先からの接待の応酬とかにも応えているんでしょうかね(まぁ200%妄想空想だらけな無駄愚痴です)。

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