日本経済

2019年1月23日

【藤井聡】<拡散希望>Q&A「増税やむなし」と言われたら、こう言い返せ―10の想定問答(前編)

From 藤井聡@京都大学大学院教授

先日、経済学者の松尾匡先生と
参議院議員の山本太郎先生とご一緒して、
消費増税の深刻な問題についての
シンポジウムを開催いたしました。
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/440034

当日の議論は大いに盛り上がり、
これからはやはり、
「反緊縮」運動の、
国民的展開が必要だということを
改めて認識する機会となりました。
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190121/

そんな中で、

「自分の周りに、消費増税の問題を伝えようとしても、
なかなか、伝わらない。
どうしたらいいでしょう?」

という切実なご質問を、
いくつかいただきました。

その折りには、やはり、

「デフレの時の増税は、大変なダメージをもたらす。

過去の97年増税、14年増税も共にデフレだったから、
やはり、激しく消費が減って、経済が成長できなくなった。
今はまだ、デフレだし、特に今は、世界経済の先行きも不透明。
 
こんな時に増税をすると、経済はさらに低迷し、
挙げ句に97年の時にそうであったように、

総税収自体が縮小し、財政を悪化させます」

と話をするのが、第一だと思います。

ですが、増税が必要だと思っている人は、
この程度の説明ではなかなか引き下がりません。

あれやこれやと、
質問をぶつけてくるものと思います。

その時に、的確に応えていくことが、
増税問題をしっかりと世論で広めていく上で、
とても大切だと思います。

こうした認識にて、
「別冊クライテリオン:消費増税を凍結せよ」
https://the-criterion.jp/backnumber/s01_201812/
の中には

Q&A
「増税やむなし」と言われたら、こう言い返せ
10の想定問答

というページを設けております。

この「10の想定問答」をご覧いただくと、
消費増税問題の全体像をご理解頂くこともできますし、
「別冊」の各論考の概要や関係もよく分かる―――
ということで、ここで改めて、ご紹介します。

ついては今回はまず、「前編」ということで、
Q1~Q5をご紹介します。

――――――――――――――――――――――
Q1.「戦後二番目の景気拡大期」

などと言われている今が、増税のチャンスではないのか。

A. 今の増税は最悪のタイミングです。
今、増税してしまえば、日本は再び

激しいデフレ不況に舞い戻ってしまいます。

「戦後二番目の景気拡大期」と言われているのは、

ただ単に、景気が上向いてきている期間が「長い」、
というだけで、その成長の勢いが二番目に強い、という話とは全く違います。
現下の状況は、全く勢いのない
経済成長がダラダラと続いているにすぎません。
しかも、そのダラダラと続く成長がもたらされているのは、
単に、世界経済の好景気を背景とした「輸出の増加」がメインの要因。
日本経済の勢いそれ自身は極めて脆弱。
こんな状況で増税をしても、それを乗り越えることはできません。
それ以前に、増税をする予定の2019年というタイミングは、
文字通り「最悪」のタイミングです。
「オリンピック特需」が終わり、「世界経済」が不景気になっていき、
しかも、働き方改革で残業代が5~8兆円程、私たちの給料が減っていく時期でもあります。
だからそもそも、増税などしなくても「大型の景気対策」が必要なくらいに、
最悪の状況になっていくのが、来年という年なのです。
そんな状況で、日本経済の6割を占める消費に
「増税」なんてしてしまえば、
最悪の経済状況となるのは明らかです。
 このあたりの状況についての詳しい議論は、
『なぜ今、「消費増税を凍結せよ!」、なのか?』
――以下、巻頭企画と呼称します――や、
本誌に寄稿された数々の経済学者、エコノミスト達の記事を参照ください。
各寄稿者がそれぞれの立場で、
それぞれの視点で、如何に来年の消費増税が

「危険」極まりないものであるのかを、冷静かつ客観的に議論しています。

――――――――――――――――――――――
Q2. 政府は「軽減税率」とかいろいろ対策するから、増税しても大丈夫じゃない?
A. 全く大丈夫ではありません。最悪の帰結をもたらします。

そもそも軽減税率が適用されるのはごく一部。
ポイント還元なども検討されていますが、それも、ごく一部。

しかも、短期間で終了してしまいますが、
10%の消費税は、来年以降、ずっと払い続けなければならないもの。
だから、軽減税率やポイント還元等の効果は、「限定的」なのです。
しかも、「10%」になるということで、
そのインパクトはさらに拡大することも、心理学の視点から指摘されています。
巻頭企画、および、川端祐一郎助教の本誌記事を参照ください)
さらには、先にQ1.への回答にもあるように、
来年の消費増税は「最悪のタイミング」でもあり、
その増税インパクトは恐ろしい水準に達することが真剣に危惧されます。
もちろん、消費増税のインパクトをはるかに上回る対策を行えば、
その被害を回避することはできます。
しかしその水準は、年間10兆円~15兆円の
追加的な補正予算を経済対策として
五カ年程度継続するというものでなければなりません
(例えば、『10%消費税が日本経済を破壊する』(藤井聡著)を参照ください。
そもそも増税をしなくても、「現下のデフレ」や「オリンピック不況」等の対策だけにでも
年間10兆円規模の対策を「2年程度」続けなければならないのですから)。
もしも、政府の対策が、その水準に到達しないのなら、

「増税しても大丈夫」とは絶対に言うことは出来ないのです。

――――――――――――――――――――――
Q3.2014年に増税したけど、

今でも成長してる。やっぱり増税の影響は軽いんじゃないの?

A.全く、軽くありません。
増税後、消費も賃金も激しく下落し、庶民は確実に貧困化しています。
にも関わらず「輸出」が15兆円も伸びたから、
その被害が見えにくくなっているだけです。
そもそも、14年以後「成長している」といっても
その成長率は極めて低い水準です。
『巻頭企画』でも紹介しましたが、
増税によって物価も賃金も、消費も激しく下落しています。
それにも関わらず、僅かなりとも成長しているのは、
誠に「ラッキー」な事に、世界経済の好景気を受けて「輸出」が伸びているからです。
図1に示したように、増税直後から、輸出が15兆円も伸びたのです。
そもそも消費税の総額は8兆円程度ですから、
その約「二倍」もの水準で輸出が伸びたわけで、
これが、消費税増税の被害を埋め合わせています。
例えば、本誌記事の中で元日銀副総裁の岩田規久男教授
「最近2年弱に渡って低飛行ながらもプラス成長が続いているのは、
ひとえに輸出の増加のため」と指摘している他、

経済学者の松尾匡教授や経済ジャーナリストの田村秀男氏も本誌で論じている通りです。


図1 輸出額(実質値)の推移

――――――――――――――――――――――
Q4.「成長させて税金増やす」って言うけど、

これから人口も減るし、増えなかったらどうするの。無責任じゃない!?

A.断じて無責任ではありません。
そもそも人口が減少している国も含めた、日本以外のすべての国が成長しています。
日本が成長しないなんて、あり得ません。
そして、成長しなければ、貧困や格差は広がり、財政も悪化します。
だから「成長させる」と言わない政治こそ、無責任なのです。
図2をご覧ください。この図は、過去20年間の経済成長率のランキングです。
ご覧のように一つの例外を除いて、全ての国が「成長」しています。
ところが、一つだけがマイナス成長している国があります。
その国こそ、我が国日本。
成長率は、実にマイナス20%。
世界中には人口が減っている国もたくさんありますし、
いくつもの先進国がありますが、それらの国は全て成長しています。
にも関わらず日本だけ衰退しているのです。
これはつまり、日本が衰退しているのは
「人口が減っているから」でも「先進国だから」でもない、ということです。
日本だけが異常な状況にあるのです。
ではなぜ、日本だけが成長できない異常状況なのかと言えば、
それは、日本だけがデフレという「病気」にかかっているからです。
こんな「マイナス成長」の病理的なデフレを放置しておく政治こそ、
無責任政治だと言わねばなりません。
ちなみに、本誌に寄稿されたほとんど全ての経済学者、
エコノミストの皆さんが共通して指摘しているように、
財政政策と金融政策を適切に組み合わせれば、経済は成長します。
そして逆に、今このタイミングで消費増税をしてしまえば、
この「衰退」から脱却することができなくなります。
消費増税の悪影響を無視し、
日本だけが成長していないという
「真実」を無視し続ける学者やエコノミスト、

政治家の皆さん達こそが、「無責任」なのです。


図2 世界各国の過去20年間の経済成長率のランキング

――――――――――――――――――――――
Q5.今、増税して少しでも借金を減らしておかないと、

将来にツケを残すんじゃないの?

A.消費増税すると、かえって「ツケ」が拡大しまいます。
「消費増税」をすると、景気が悪くなり、税収それ自体が減ってしまいます。
例えば経済学者の飯田泰之准教授が本誌で指摘しているように、
「消費増税は消費の減少を通じて景況を悪化させ,
本来得られたであろう税収を失う」ことになります。
そうなると借金がかえって増え、「ツケ」が拡大します。
それどころか、本誌座談会でも議論されているように、
消費増税をすれば「成長」できなくなって、
今日よりもさらに貧困や格差が広がると同時に、
経済力、科学技術力や防災力、国防力といったあらゆる側面で国力が弱体化し、
アジアの貧国、さらには最貧国の一つになる―――
という悪夢のような未来が、

私たちの子や孫に「ツケ回される」ことになります。

~以上の続き(Q5~Q10)は、次週、公開いたします~

追伸1:
ここで引用している各種論考の詳細は是非、「別冊クライテリオン:消費増税を凍結せよ」にてご参照ください。
https://the-criterion.jp/backnumber/s01_201812/
(定期購読は、こちらからhttps://the-criterion.jp/subscription/ )

追伸2:
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【藤井聡】<拡散希望>Q&A「増税やむなし」と言われたら、こう言い返せ―10の想定問答(前編)への5件のコメント

  1. たかゆき より

    成長率ランキング

    日独伊が最下位争いってのも 笑えるけど、、

    トップグループ

    成長率1000%とかって

    成長じゃあなくって インフレだべ ♪

    返信

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  2. 利根川 より

     良かれと思ってやったことが、かえって仇になるというケースは往々にしてあるもので、20年前、30年前の日本の有権者達も

    昔の有権者「子や孫の世代にツケを残さぬために、将来の為に消費税を増税するのだ。痛みを我々の世代が引き受けよう」

    とやったわけです。
     ところが、消費税増税(橋本政権時)によってかえって税収の伸びは鈍くなってしまい(デフレ不況に転落)その減った税収を穴埋めするために赤字国債が増発されることになりました。

    注:ここで言う赤字国債とは建設国債の事ではありません。建設国債の発行額は横ばいでずっと変化していない

     具体的な数字は以前、藤井聡教授がグラフにして解説してくださっているので、そちらをお読みください。
     良かれと思ってやったことがかえって仇になる。なぜこのような事が起こるのかというと

    世間一般に「良い事」とされている事が必ずしも何時、どんな状況でも「良い事」であるとは限らない

    からです。
     たとえば「節約」は世間一般では良い事とされています。ですが、ここ20年を振り返ると

    企業「国内の景気状況はあまりよろしくない。安くしないとモノが売れないのでコストカットせざるを得ない。節約します」

    個人「コストカット(人件費削減)のあおりを食らって収入が増えないのに増税される。節約せざるを得ない」

    政府「国民が『国民は節約頑張ってるんだから政府も節約しろ』と言うので、政府も節約します」

    企業・個人・政府「節約がんばります」←全員、お金を使わない宣言

    藤井聡教授「全員が一斉にお金を使わなくなったら経済崩壊するやろ」

    この様な事が繰り返されてきたわけで、状況や立場によっては「節約」は悪にもなるわけです。
     例えば「働くこと」は世間一般では「良い事」とされています。というよりも、当たり前の事と認識されている。
     最近見たTVでは、老齢で引退した人達が半分趣味で洗車などのサービス業をレンタカー会社や自動車販売会社で行っていると言うのを見ました。
     自動車会社の方は

    「仕事が丁寧で、長時間やってもお値段が高くないので助かる」

    と評価されていたし、働いている高齢者の方も

    「生きがいになるし、収入面は気にしていない」

    と、一見するとWINWINなように見えます。
     既にある程度の資産を持っている方は「生きがい」で労働をしても良いのかもしれませんが、これから資産を蓄えたいと思っている方はそういうわけにもいきません。
     丁寧でお安く仕事をされてしまっては、競合する業者も価格競争の面で安くせざるを得なくなります。それっていい事なのでしょうか。
     働くなと言っているわけではなく、いい仕事をするならキチンとマネーも頂かないとダメなのではないかという事です。
     それができない状況であるなら、かえって働かない方がよろしい。
     元ゴールドマンのデービッド・アトキンソンさんは
     

    >>今までの日本では、企業経営者たちは優秀な人材を数多く、しかも世界的に見ると異常なまでに安い賃金で調達することが可能でした。その水準はまさに異常です。
    例として、日本とイギリスを比較してみましょう。日本人の生産性はイギリス人の98%です。一方、日本の最低賃金はイギリスの3分の2です。そして、この異常に安い最低賃金で働いている日本人が、今も増えているという悲しい現実が存在します。

    逆の見方をすると、日本企業は数多くの優秀な人材を安く調達することができたからこそ、生産性が低くなってしまったとも言えるでしょう。>>

    と分析しています。
     労働者と政治家が経営者を甘やかしてしまった事がまずかったとの事。
     働いてくれる人が居るから世間は滞りなく動いているわけですが、それでも状況によっては働いてしまう事が状況を悪化させてしまう事もあるりうるということですね。
     世間一般に「良い事」とされている事、つまりは道徳ですが、それが必ずしもいついかなる状況でもよい事であるとは限らない。
     でも、

    専門的な知識が無い者、つまり「道徳」という物差し”しか”持ってない者はそれでモノを測るしかない

    だから、良かれと思ってやったことが裏目に出てしまうのではないでしょうか。
     今の日本は、ミリオネラと呼ばれるような超お金持ち以外、全ての国民はジワジワ貧乏になっていく時代です。
     今、小金を持っている者はいずれ中間層に転落するし、中間層は低所得者層に、低所得者層は貧困層に。
     現に、かつて「分厚い中間層」などと言われた層は、いまはもう存在していません。
     これを打破するには最低限、お金に関する認識は正す必要があると思います。
     藤井聡編集長やクライテリオンに寄稿されている論客の方々を応援しています。

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