日本経済

2018年7月7日

【saya】「10分いくら?」の世界

From saya@歌手/チャンネル桜キャスター

先日、仕事の打ち合わせがあり初めて山手線の大塚へ行った。
その帰り道、とんでもないものが私の目に飛び込んできた。

雑居ビルが立ち並ぶ大塚駅南口からすぐの角に
【10分500円〜】と大きな看板。
駐車場かな?と思って横を通過しようとしたら
なんとそれはラブホテルだった!

え?!10分500円?!
というか10分で入って出るカップルっているの?
っていうかこれは普通のカップルじゃなく、ご商売の人用?!
でもなんか駐車場っぽいよなぁ、、、この表記。
今や時代は“ワンコインラブホ”なのか?!!!..etc

私の頭の中がニコ動のコメント状態になったその時、
『あぁ、最近こういうのあるんだよね。デフレの影響だね。』
とチャンネル桜でもお馴染みの映画評論家 前田有一さんが呟いたのだった。

帰りの山手線の中、私もワンコインを経験していたのを思い出していた。
それは以前ボイストレーナーの仕事をしていた時の事、
何度か通って来ていた生徒さんから 通常一回1時間のレッスンを
その日の自分の都合で15分〜30分毎のカウントに変えてほしい、との要望。

私の方針と違うので、その時はお断りした。
なぜこういった希望が出たのか聞いてみると、
他にバイオリンのレッスンを某大手音楽スクールで受けており、

そこでは10分500円〜のワンコインレッスンを受けられて
忙しい自分には都合が良い、との事だった。

ああ、そうか、この人にとっては
レッスンのひと時を‘買っている’に過ぎないんだなぁ、、と気づいた時、
私が歌なりピアノなりを習っていた時代と 隔世の感があると思った。

最近の生徒さんに多いのが、何回のレッスンでどのくらい成果があるか
レジュメを書いてほしい、30分で一曲歌えるようにしてくれ、
事前に知らせたのに、自分の歌う歌詞カードを持ってこない。
一言注意したらすぐに辞めてしまう。。。etc

‘本来、人にものを習う時は、、’なんて言うと、
すごく頭のかたい人と思われちゃいそうで言いにくかったのだけれ
私の中の説教オバサン&頑固オジサンの強力タッグがこう言っている。
『それが人に物を習う態度かい!』と(笑)

音楽に限らず、人に何か教えをこう時、
教える方も教わる方も互いに特別の緊張感があるものだ。
教わる側には先生が莫大な時間を費やし体得した技術を、
継承するための心構えと緊張感。
教える側には、そういう心構えできてくれた生徒さんの期待に応えられる
自分なのかどうかと、常に自分を戒め続ける緊張感。

こういう世界に『10分いくら?』の売り手買い手市場を持ち込むことの
なんと無粋なことか、、、駐車場じゃないんだ先生は!

レッスン業界だけじゃない。
本当の学校教育にもいわゆる市場原理が潜り込んでいる。
今高校や大学の教師たちは、文科相の要請で
いついつどういう授業をして、どういう成果が出たかを常に提出させられる。
それを生徒がアンケートで評価し、フィードバックがなされる。
教師は常に生徒からの評価を気にし、生徒好みの『到達目標』を明記しないといけない。

一見すると優れたシステムのようだが、
一部の心ある教師たちが近年どんどん現場から去っているのも
あまりに『取引化』され過ぎてる‘教育’に
心がいたんでしまうからかもしれない。

昔、私が初めて演歌の先生に師事した時、その先生の家には内弟子の女性がいた。
住み込みで全ての家事雑用をこなし、生活時間の全てを先生に捧げていた。
その上でいつの日かオリジナル曲をもらいデビューする日を待ちわびる、、、。
当時の私は生意気だったし、正直 何もそこまで下僕のように働かなくても!
と思ってしまった。

でも今は彼女の気持ちとっても良くわかるのだ。
先生が永い年月をかけて体得した技術は、それを先生に教えてくれた先生がいて
その先生にもさらに上の先生がいて、、、いくつもの世代を超えてやっと繫れてきた
なにものにも代えがたい宝物なのだと。
そういう数えきれない継承の繰り返しの末に今、自分の目の前にやってきた宝。

その宝を自分も得たいと思ったとき、
それは到底‘おカネ’なんかで払いきれるものではない。
もし払いきれるとしたら自分の人生そのものをかけるしか
方法はないのかもしれない。

そしてもしそんな気概を持ってやってきた本気の生徒には
きっとお金がなくても教えたくなるんだろう。
ほんとの先生っていつだってそういうものだと思う。

市場原理では到底解決できない複雑で楽しい人間の繋がりを、
音楽を通してたくさんの人と築いていきたい。

【お知らせです】

7/22(日)東京MX TV『激論!サンデーCROSS』11:59〜 出演予定

7/27(金)sayaライブ@野毛DOLPHY at:横浜市中区宮川町2-17-4 第一西村ビル2F
ライブ予約 Tel:045-261-4542 お問い合わせメール:info@dolphy-jazzspot.com

saya オフィシャルサイト
http://www.1002.co.jp/aquarellerecords/saya/

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【saya】「10分いくら?」の世界への2件のコメント

  1. たかゆき より

    one coin skill

    on eco ins kill…

    ラブホ:排泄するだけなら 10分もあれば 充分
        いわゆる 公衆便所

    習い事:博打と一緒 張子も親も真剣勝負
        張る前から リターンは?と聞くのは アホ

    >もし払いきれるとしたら自分の人生そのものをかけるしか
     方法はないのかもしれない<

    仰る通り!!

    人生は賭場 ♪
        

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  2. 神奈川県skatou より

    事前に明らかにせよ、とは製造業チックな話ですね。
    人の心からカネカネを解決しても、モノモノでは。。。
    価値を忘れた人間は残念であります。

    でも、もっともっとみじめな産業があります。IT産業です。

    私の属するIT業界というのは、電子土建業と言われる業界です。むろん、土建業の「悪いところだけ」を抽出して表現した揶揄です。後見積もりを許さず自腹、といえばお分かりになるでしょうか。トンネル工事して途中で岩盤が出てきて計画が頓挫した時、工事請負業者、しかも末端業者の自腹でやみくもに解決する、しかも日程変更許されず、というようなのが、IT業界といえば良いでしょうか。

    本質を取り違えた産業は、さまざまな形でその矛盾の代償を末端が払わせられます。労働者は月に300時間を超える作業をし、組織のストレス、コンピュータ(=融通が利かないもの)のストレスにさらされ、せめてもの救いが、残業代が出る事だけ。身体と心を犠牲にしてカネを得て生きていく。いや、精神的に社会的に肉体的に死んでいく。日本ではもう未来の無い産業です。

    なぜそうなったか。

    日本でIT産業は「製造業」の方針で経営されます。
    設計書、仕様書を作り、良いものを作って収めてお金をもらう。
    だからダメなのです。

    ITはモノではありません。手に取って確認する。物理的存在ではないのです。仕様書というのは、物理特性を記載すればそれは確固たるものですが、ソフトウェアの仕様書というのは、決め事にすぎないのです。決め事を、どう扱うべきか。それは人と人との調整なのです。

    物理的製品の開発手法=製造業を用いてIT産業をマネジメントすれば、かならず矛盾が生まれます。つまり仕様の不備、不明確、不徹底、不適当、これをIT産業で撲滅することはほぼ無理です。なぜなら、IT産業はまだ見ぬ、存在しないシステムを作るので、未知なるものには不確定要素がつきものだからです。
    (DVD販売するような多売のパッケージ商品は別)

    なので、人と人との調整がIT産業の本質なのです。それは最近多くの研究で論文が出ている、すでに答えの出た話です。ちなみにアメリカではITは製造業スタイルではありません。サービス業のスタイルなのです。だから彼らに未来があって、日本のITに未来が無いのです。

    サービスとは何か?サービスサイエンスという研究があるので割愛します。簡単に定義を言えば、人または設備が機能によって価値を提供し、それが事前期待以上であること、です。

    IT産業の見積もり根拠は、労働時間です。
    つまり、このシステムを作るのに、どれだけの人が何時間かかるか、で計算されます。これはなんでしょう?つまり、人月商売。ひとの時間を売っている商売なのです。しかも未来へのリスク満載の対象の責任を負いながら。。。

    請負でなく、会話しながら少しずつ形作る。
    そんなスタイルを今更志向しても、もう遅いのかもしれません。
    ITが進まなければ日本は後進国です。なんとも残念であります。

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