日本経済

2018年1月16日

【三橋貴明】国民経済の教育(後編)

From 三橋貴明@ブログ

さて、貧すれば鈍する、という言葉があります。

「暮しが貧しくなれば、心までも貧しくなる」

という意味ですが、国民経済という視点から
考えたとき、デフレにより実質賃金が低下し、
国民が貧困化していくと、肝心要の
「付加価値創出能力」までもが衰えていきます。

無論、しばらくは過去の投資の蓄積により、
付加価値創出能力、つまりはモノやサービスの
生産能力は維持できます。

とはいえ、投資(人材投資含めて)とは
劣化、老朽化、陳腐化してしまうものです。

過去の投資分を使い果たしたにも関わらず、
新たな投資をしないとなると、その国は
モノやサービスの生産能力を失います。

すなわち、発展途上国化です。

そして、デフレによる国民の貧困化は、
国内需要を縮小させるため、
企業や経営者の投資マインドを損ないます。

デフレにより、国民が貧困化。

企業が投資を怠り、発展途上国化。

デフレ下の日本は、まんまこの道を辿り、
衰退してきました。

加えて、グローバル株主資本主義
という厄介な問題があります。

デフレで国内経済が盛り上がらない中、
グローバル株主から「利益最大化」を
求められた経営者は、二つの道を選びます。

すなわち、人件費削減と
「グローバル市場」への参入です。

人件費削減は、当たり前ですが
国民の実質賃金低下であり、貧困化です。

国民が貧困化し、儲からない状況で
人件費削減を図ると、ますます国民は貧困化します。

また、グローバル市場に打って出ると、
苛烈な「価格競争」に巻き込まれることになります。

価格競争に勝ちたいならばら、本来は
「投資による生産性向上」が必要なのですが、
短期の利益拡大をグローバル株主から求められた企業は、
やはり実質賃金の引き下げや、外国への資本移転を選択しました。

結果、国民はひたすら貧しくなり、
企業の中核能力たる
付加価値創出能力までもが損なわれていきます。

『「賃金抑制はいいことだ」と考えた企業経営者たちの失敗 なぜアベノミクスで賃金が上がらないのか(中)
http://diamond.jp/articles/-/155409

なぜアベノミクスのもとで賃金が上がらないのか──。

労使関係に詳しく労働経済論などの専門家でもある
石水喜夫・元京大教授(現・大東文化大学経済研究所兼任研究員)が
3回にわたって解説するシリーズの2回目は、
賃金を抑制することがいいことだと考えた「経営者の失敗」についてです。

◆賃金を削って利益を出す経営に変わってしまった

日本企業に勤める人たちは、
所属する組織の一員として、
誇りをもって働いてきました。

組織の目的のために、多少の無理も聞き、
まずは仲間のことを考えて行動してきたはずです。

このような気持ちに応えるため、
賃金の支払い方にも日本企業ならではの
工夫があったように思います。

しかし、時代は少しずつ移り変わってきました。

景気拡大過程での企業利益と賃金の関係を見ると、
「第I期」、「第II期」、「第III期」という、事態の確実な
進行が読み取れるのです(図1 利益率上昇過程における実質賃金の推移)。

第I期は、1990年代半ばごろまでのデータによるものですが、
戦後日本経済の一般的な労使関係を反映しており、
会社がもうかれば、働く人たちの賃金も増えています。

会社で働く人たちは、経営側も労働側も、あまり隔てなく、
一緒になって会社をもり立てていた時代だったのではないでしょうか。

しかし、1990年代後半に変化が生じました。

第II期では、利益が増えても
平均賃金が上がらなくなったのです。

そして、現在では、物価上昇率の高まりによって
実質賃金が低下するようになりました。

金融の異次元緩和が始まってからは、
賃金を削って利益を回復させる第III期へと
突入してしまったように見えます。(後略)』

経済デフレ化までは、
経常利益と実質賃金が、
同じ感じで増えていた。

デフレ化から東日本大震災前まで、
経常利益は増えるものの、実質賃金は横ばい。

東日本大震災から直近まで、
経常利益が増えているにも関わらず、
実質賃金は下がり続ける。

日本は、まさに「グローバル株主資本主義」と
「デフレーション」という二重の災厄の、
最終局面に至っていることが分かります。

正直、わたくしが書いているようなことを理解しており、

「日本の国民経済のためには、長期的視点に立ち、
人件費を引き上げていかなければ、我が社の
肝心のコア・コンピタンス(中核能力)が失われる」

と、考えている経営者は、
決して少なくないと思いますよ。

とはいえ、現実には
「グローバル株主資本主義」の圧力で、
人手不足が深刻化しているにも関わらず、
大幅な賃上げに踏み出せない。

結局のところ、政治家、経営者、
そして日本国民が、昨日(1/14)から本日(1/15)にかけて
書いてきた「国民経済の本質」を理解し、

「国民を豊かにすること(=実質賃金の上昇)こそが、
経済(経世済民)の本来の目的だ」

と、共通認識に至らない限り、
「国民が豊かになる日本国」を
取り戻すことは不可能だと思うのです。

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