日本経済

2017年10月24日

【藤井聡】「景気対策としての大型補正」と「教育国債」で、アベノミクスを完了すべし

From 藤井聡@京都大学大学院教授

この度の総選挙で、政府与党は「大勝利」を納めた一方、内閣支持率は30%台で不支持率よりも下回っているという、一種「異様な状況」にあります。
https://news.biglobe.ne.jp/domestic/1022/jj_171022_1950921742.html

この様な状況においては、内閣はこれまでよりもさらに厳しく、その「実績」が問われることになることは必定です。

その第一の試金石は、北朝鮮の有事リスクであり、北朝鮮からの核ミサイルの「本土着弾」を回避することは、安倍内閣の絶対的使命です。もちろん、核着弾以外のあらゆる攻撃によって国民の生命と財産が毀損することに全力を注入することも必要不可欠ですが、核着弾だけは、何があっても阻止せねばならない最優先課題です。

同時に、これまでの5年間で主張し続けてきた「デフレ脱却」も、そろそろ完了させなければなりません。安倍内閣が誕生し、アベノミクスを五年も続けてきたのに、未だにデフレ脱却は達成できていないのは、紛れもない事実だからです。
https://38news.jp/economy/11004

そもそももしもアベノミクスでデフレが完全脱却できていたなら、内閣支持率は高水準であったに違いありません。「現状の内閣支持率の低さ」は、直接的には森友・加計問題に象徴される現内閣の態度に差し向けられたものではありますが、国民ひとりひとりの暮らし向きが良くなっていれば、状況は一変していたに違いないのです。

つまり大半の国民にとってみれば、マクロ経済学のややこしい議論や各種経済指標はわかりにくいものであったとしても、「暮らし向きが良いか悪いか」は、肌で誰しもがハッキリと理解できるのです。そして今、現実の暮らし向きが全然良くならないからこそ、安倍内閣への不満が蓄積され、それが支持率の低迷を生み出す根底的原因となっているのです。

外交に関しては「大本営発表」でゴマカシ続けることができるとしても、経済に関してはゴマカシが効かないのです。

ではデフレ完全脱却のために必要なものと言えば、それはもちろん、「財政政策」です。

例えば、ケインズ経済論を持ち出すまでも無く、
http://amzn.to/UK4e9F
「高圧経済論」に基づいても、
https://38news.jp/economy/11064
クルーグマンやスティグリッツ達の日本経済に向けた主張に基づいても、
https://38news.jp/economy/11064
さらには「日銀の資金循環統計」の視点から見ても、
https://38news.jp/economy/10378
デフレ脱却に向けて今足りないのは、「さらなる金融政策」でもなく、ましてや「さらなる構造改革」でもなく、持続的な成長のために必要な「十分な規模」の財政政策の他に何も無いのです。

では、本日の政治状況を踏まえながら、具体的にどういう取り組みが必要かを、具体的に考えてみましょう。

(1)第一方針:「景気対策」としての大規模補正を組むべし
第一に、今、総理が主張している「人づくり革命に向けた2兆円規模の新たな政策を年内に策定する」という議論とは「別」に、「景気対策」としての10~15兆円大規模補正を、速やかに決定していくことが必要不可欠です。

そもそも、人づくり革命の2兆円は、あくまでも人づくり革命のためのものであって、景気対策とは全く異なるもの

だからこの2兆円とは「別」に、経済対策を組むことがなければデフレ脱却は不可能となるのです。

ましてや、政府は今、少なくとも表向きには「これから増税をする」と主張しているわけですから、その増税ショックを最小化するためにも、増税までに大規模な景気対策を図って、経済が失速しない状況にしておくことは必須です、と自ら言い出さなければならない筈です。

(2)第二方針:大規模補正の効果的な「中身」を速やかに検討する
第二に、そうした大規模補正を財政論として決定していくと同時に、内閣府を中心として全省庁が協力しながら、デフレ脱却を果たすために効果的な、予算の「中身」を確定していくことが必要です。

例えば、次のようなものが、効果的補正予算として考えられます。

a)「経済対策」としての大規模な投資減税(既存の制度をより拡張し、大規模な予算の下、投資した企業に対して大幅に減税する) → 民間投資の誘発、内部留保の縮減を図る。

b)「ICT」「強靭化」推進のための大規模な投資減税(上記のa)の制度改変に加えて、既存の制度をさら拡張し、大規模な予算の下、さらに大幅に減税する) → 政策的に求められる情報化、イノベーション、強靭化等の方向の民間投資をさらに誘発、内部留保の縮減を図る。

c)「経済対策」としての大規模な賃上げ減税(既存の制度をより拡張し、大規模な予算の下、大幅に減税する。) → 賃上げの誘発、内部留保の縮減を図る。

d)「経済対策」としての大規模な「たび割」(既存の制度をより拡張し、大規模な予算の下、復興・地方創生・クルーズ振興などを見据えつつ、政策的に求められる国内旅行需要を活性化する)  →  民間消費の拡大、復興、地方創生、クルーズ振興を図る。

e)「科学技術政策」としての科学技術投資(日本の飛躍的科学技術の発展や、民間および海外からの国内への研究開発投資の飛躍的促進を企図して、国際リニアコライダーILC投資、あるいはそのための調査等を進める) → 科学技術力の向上を通して長期的な成長力を向上する

f)「経済対策」としてのインフラ投資(とりわけ民間投資誘発効果や地方創生効果の高い、新幹線、高速道路、港湾などのインフラに絞り込み、集中的に投資する) →  短期的なフロー効果のみならず、長期的な生産性を向上するストック効果を通して、成長力を抜本的に向上させる

こうした具体的な支出項目を徹底的に各省庁と共に調整を図りつつ、速やかに絞り込み、大規模に展開していくことが、デフレ脱却のために必要不可欠なのです。

(3)第三方針:教育国債の活用
第三に、今、政府は、上記の「人づくり革命のための2兆円」の「財源」として「増税分も一部活用する」と主張していますが、それだけでなく、これまで議論されてきた「(教育)国債」もまた、財源としてあわせて活用する方向で調整することが必要だと考えます。

そもそも、これからの北朝鮮有事や世界経済危機(そろそろリーマンショックから10年。今の米株式市場の活性状況をみれば、いつ何時同様の危機が起こってもおかしくない状況にあります)が起これば、消費増税は不可能となるでしょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS26H65_W7A920C1PP8000/

そうなったとき、増税分を財源としておけば、人づくり革命そのものが頓挫しかねぬ状況となります。それを避けるためにも、財源は教育国債を基本としておくことが得策です

もちろん、増税分は、借金返済よりも教育を含めた各種の未来投資に活用していくことは、成長のためには比較的に得策ではあります。だからやはり、「財源として消費増税分を活用する」という方針がこれから政治的に決定されていくことは十分考えられます。しかしその場合には、政府は、「万一増税が出来なくなった場合は、その代わりに教育国債等を活用する」という方針もあわせて決定すべきだと、筆者は考えます。

そうすれば、人づくり革命が増税延期のために頓挫することが回避されるでしょう。

いずれにせよ・・・軍事的有事リスクまで高まりつつある今日、日本の政治の重要性はかつて以上に高まっています。安倍総理を中心とした政府・与党には、公約で繰り返した「日本を守り抜く」というスローガンに沿った、国民誰もが納得できる政策を運用されることを、心から祈念いたします。

追伸:大型補正の際には、様々な側面に配慮することが必要です。例えば、最近出版した下記書籍の方針に沿った公共交通投資、郊外駐車場・環状道路整備などの予算項目も考えられます。
http://amzn.asia/c7mhqcS

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【藤井聡】「景気対策としての大型補正」と「教育国債」で、アベノミクスを完了すべしへの5件のコメント

  1. スズメのかたびら より

    チャンネル桜の強靭化の討論の回を見ました。財務省の人間はアメリカや中国に買収されてるのか、脅されてるか、もしくは財務省の人間が日本人ではなくなってるのかと思ってたのですが、そうではなく、知能は高いが、国家感や公共心のまるでない、豊かな恵まれた生活により普通に誰でもが持つ感覚を削がれている、物事の優先順位が分からない人たちっていう感じなのですかね?衝撃でしたwまだアメリカの手先として金で買われてたという理由のほうがマシだった。
    MXの番組で西部先生が、東大法学部を出た学生が財務省に入って何をするか、まず日経新聞を読むんじゃないか、そこで読んだことをそのまま実行するんじゃないかと言ってたような記憶があるんですが(うろ覚え)本当にそれやってたんかい!って感じです。人作り革命とやらで、財務省の役人のような人間が絶対に生まれないような、いても上がってこられないような、教育の仕組み、場作りをやってくれるなら賛成なんですが、ただ単に大学に全員いけるようにってだけみたいですね。公共投資してくれたら職人もいっぱい生まれるのに。手や体で学ぶことも多いのにって思います。

    クルマを捨ててこそ地方は蘇るについて
    大きな商店街がボンボンとあってその周囲に大きな駐車場があったらいいなと思ってました。田舎の産業は、農業、畜産、林業、漁業、観光、公共事業が主体で、できれば地方から産業がどんどんうまれて育ったら素晴らしいなと思うんですが(育っても都会や外国に出てしまう)肥料とかバイクで運ぶのほんときついのでw車をいきなりなくすの厳しいので、産業が育つまでは車を持つ人のお金の遣い方が地元に回るような仕組み、産業が育ってきたら徐々に車を減らすみたいな感じで行ったらいいなあと夢があるお話だと思いました。自分が考えている理想の都市は、奈良や京都のように神社仏閣や在来工法の美しい建築があって、アメリカや他所の猿マネではなく、その土地の自然の素晴らしいところを生かし、そこに住まう人の素晴らしい能力が合わさってできた文化で満たされてるような、そして町を歩く人々は和服を着て風景を美しく彩って欲しい。和服っていっても堅苦しくなく昔の人のように適当に着易いようにざっくり着る感じで 町全体がロマン、物語、もしそんな都市があちこちにできたら、完全に日本を取り戻したと言えると思い毎日夢見ています

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  2. Koba より

    最近思うんですが、一番現実的な方法は1000兆円という国債の額を600兆(日銀保有分を引いた額)にする(政府硬貨などで)ことだと思います。何らかの手段で相殺決済すれば表記上600兆になりますが、なったらニュース速報も流れると思いますし、新聞のトップニュースになる可能性もあります。そうなれば宇宙一頭の不自由な方でも借金で破綻という論理に少なくとも疑問を呈するようにはなると思います。頭の不自由な方々にいくら財政出動の意義を誠実に訴えても…むしろ訴えれば訴えるほど財政破綻の足音といった幻聴症状が悪化するだけだと思います。ならばいっそ借金の見かけ上の数値を下げて現実を見せた方がよいと思います。

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  3. 藤林 勇治 より

    1000兆円の借金は誰が誰に返すものなのでしょうか?
    国の借金が1000兆円と言いながら何故国民一人当たり840万円になるというのでしょう、そうであれば国民は誰にどのような方法で840万円をかえせば良いのでしょうか?

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  4. クレヨン より

    今の日本は明らかに深刻な危機の中にあり、潜在的戦時と言ってもいい状況にある。にもかかわらず普段通りの研究をさせろと言う。日本の学者というのは戦前からそんな感じだったのかなあ。

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