コラム

2017年3月22日

【佐藤健志】「変」のパワーを活かす方法

From 佐藤健志

岩手県の達増拓也知事が
『右の売国、左の亡国 2020年、日本は世界の中心で消滅する』について、本の画像入り連続ツイートをして下さいました。
ご紹介しましょう。

1)佐藤健志『右の売国、左の亡国』。日本の悲惨な実情。
しかし論理の明快さが痛快です。何が変なのかを知ることで、変な事をしないようにする、というのが事態打開の確かな一歩なのでは、と思いました。「変」を甘く見て持ち上げすぎたのが戦後の敗因かも。
https://twitter.com/tassotakuya/status/834386790987427841

2)「太陽の季節」に始まり、学生運動的カウンターカルチャー、80年代、芸人の主流化、というのが戦後の「変」の系譜でしょうか。カルチャーは「変になれば楽しくなる」(アニメ『うる星やつら』)でいいと思いますが、政治がそうだと、やはりマズイ。
https://twitter.com/tassotakuya/status/834392339997011969
(カッコは原文)

3)さかのぼれば南北朝のバサラ、安土桃山のカブキ、江戸の町人文化、近代のエログロナンセンス、と、日本には「なんでもあり」の民衆文化が分厚い層を成している。それは政治的たくましさの元にもなるが、政治を堕落させ衰退の元にもなる。
https://twitter.com/tassotakuya/status/834486326195953664

4)日本の「なんでもあり」文化に流されないようにするには、
保守が仁愛を、リベラルが理想を、それぞれ失わない事だと思う。
新渡戸稲造や宮沢賢治が参考になる。「なんでもあり」は文化として、たしなみ程度に、ほどほどに。
https://twitter.com/tassotakuya/status/834489456597938176

本のご注文はこちらよりどうぞ!
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・・・知事、ありがとうございます。

知事のおっしゃる「変」とは、
〈社会の閉塞感が高まったときに噴出する現状否定のエネルギー〉
と規定できるでしょう。

世の中のあり方が「変」になっていると位置づけ、
いわゆる良識派から「変」なヤツと思われてもいいから、
物事を「変」えようと構えるわけです。

この姿勢自体は、べつに悪くありません。
問題はツイートにもあるとおり、「変」がしばしば「何でもあり」に堕してしまうこと。

はじめのうちは「変」として、現状にアンチテーゼを突きつけていればいいでしょう。しかし現状がいよいよ崩れてくると、「変」(=異端)であるだけではすまされなくなる。

従来の物事のあり方に取って代わるべき新たな秩序の構成原理、
すなわち「正常」「正統」を提示することが求められるのです。

ところが多くの場合、「変」は異端の地位に安住を決め込むあまり、「正常」「正統」への成熟に失敗する。
そういう自分のあり方を正当化しようとすれば、〈正常や正統なんて不要だ。世の中、何でもありでいいじゃないか!〉と居直るしかありません。

何でもありでいいと言うんですから、これは〈物事をもっと「変」にしよう〉と主張するにひとしい。つまりは「変の上塗り」に邁進するわけですが、そんな状態が続いたらどうなるか。すべてがワケワカになり、収拾のつかない事態に陥ってしまうのは明らかでしょう。

何かピンと来ませんか?

そうです。
「変」を「改革」、ないし「変革」に置きかえれば、これは1990年代いらい、わが国がたどってきた経緯そのものなのです!

ここで思い出されるのは、福田恆存さんが1970年代末に書いた評論「せりふと動き」の一節。達増知事のいう「学生運動的カウンターカルチャー」へのコメントです。

どうぞ。

何より黙過しえぬことは芝居、あるいは一般にフィクションと現実との混同が文化の荒廃をもたらし、文化の荒廃からその両者(注:フィクションと現実)の混同が生じているという現状である。

もちろん、文化などというものはクソ食らえ、文化の荒廃こそ創造的エネルギーの源泉だという甘ったれた寝言が前衛と称する落伍者の群れの自慰、あるいは自己欺瞞の口実となっていることを私はよく承知している。
(原文旧かな。表記を一部変更のうえ、読点を一箇所追加)

2010年代の社会状況にあわせて書き直せばこうなります。

何より黙過しえないのは、日本の現状にアンチテーゼを突きつけることと新たな秩序の構成原理を提示することの違いが分からず、
「とにかく改革によって現状を否定しさえすれば、良い結果が得られるはずだ」と構えたら最後、社会がますます「変」になってしまう点である。

そして社会が「変」になればなるほど、「とにかく改革によって現状を否定しさえすれば、良い結果が得られるはずだ」という風潮も強まる。こうして、秩序や制度などはクソ食らえ、徹底した自由化こそワクワク感の源泉だという破壊主義的発想が〈保守〉と称する急進的グローバリストの自己欺瞞の口実となることを、よく承知しなければならない。

要するに
「正常・正統な秩序」の重要性を理解しないまま、「変(革)」こそカッコいいと気取るのは自滅への道!ということです。

しかし達増知事も「政治的たくましさの元」と述べているように、変、ないし「何でもあり」のパワーは、プラスに活用できれば有益。既成の概念にとらわれず、臨機応変に対応できるわけですからね。

「変」という文字の由来は、関連して象徴的なものがある。
この字はもともと「變」でしたが、字の上半分にあたる「糸言糸」は、糸がもつれあってほどけないさまを表した会意文字。

それに「夂」がついたことで、〈不安定にもつれて変わりやすい〉という意味になったのです。「糸言糸」の下に「心」がつけば、「戀」(=恋)になるのも分かる話ではありませんか。

有名な映画『青い山脈』には、
〈「戀しい戀しい」と書くつもりで「變しい變しい」と書いてしまったラブレター〉という代物が登場しましたが、「変」と「恋」は文字通り近いのです。

余談はさておき、「変」の由来から読み取れるのは激動の時代において、変であることは有効な対応たりうる、ということ。

時代が「変」(=不安定にもつれて変わりやすい)なのですから、
〈変(=既成概念にこだわらない臨機応変な姿勢)をもって、変な時代を制する〉という戦略は当然ありです。

ただしそのためには、「変」が「変」であることに終わらず
新たな「正常」「正統」へと成熟するよう、しっかり誘導しなければなりません。

そのためには何が必要か?

達増知事のツイートにしたがえば、仁愛や理想となるものの、もう一つ提起したいものがあります。すなわち〈狂気(制御)のインフラ〉。

これは『右の売国、左の亡国』に続いて刊行される『炎上するニッポン』(藤井聡さんとの共著。仮題)に登場する概念です。
簡単に言えば「社会にひそむ現状否定のパワー(=変、ないし狂気)が、否定のための否定にとどまらず新たな正常や正統へと成熟するのをうながすような物理的・制度的基盤」のこと。

たとえばそれは、コミュニティを活性化させるような都市計画や地域振興、あるいは交通網の整備かも知れません。
人々が経済的・心理的に余裕をもって暮らせるよう、積極財政によって景気回復を図ったり、労働条件を向上させたりすることかも知れません。
文化活動が豊かになるよう、政府や自治体がさまざまな形で支援することも考えられます。

そうやって現状否定のエネルギーを制御し、仁愛や理想も媒介とすることで、「正常」「正統」に向かうようにする。
これこそが日本再生という、望ましい「変(化)」をもたらすカギではないでしょうか。
『右の売国、左の亡国』と、『炎上するニッポン』はきっちりつながっているのであります。

最後に一言。
ご存じの方も多いと思いますが、新渡戸稲造も宮沢賢治も岩手県人です。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)日本文化チャンネル桜の番組「闘論! 倒論! 討論!」特別版に出演しました。
テーマ:世界の今、そしてこれから〜西部邁氏を囲んで
https://www.youtube.com/watch?v=FHEalfD_4wc&feature=youtu.be

2)戦後脱却もまた、国を滅ぼす「変」となりかねないことの体系的分析です。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

3)保守も左翼・リベラルも、今や手を取り合って「変」になっています。詳細についてはこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
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4)わが国が70年あまり、「変の上塗り」に終始した過程の記録です。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)「あらゆる変更の目的は、これまで享受してきた幸福を今後も維持すること、すなわち保守に置かれるべきである」(313ページ)
エドマンド・バークの言葉です。これぞ「変」への正しい心構え。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
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6)「アメリカは豊かになった。われわれの守りも、それに対応して充実させねばならない」(184ページ)
イギリスから独立せよという「変」の主張も、獲得した幸福を維持するためのものだったのです。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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【佐藤健志】「変」のパワーを活かす方法への3件のコメント

  1. 拓三 より

    私は最近、世間の風潮で腹が立つ事があります。
    それは大学出の人間が不良ぶるところであります!

    ヤンキー先生、ヤンキー政治家、ヤンキー…..なんやこれ? あと、カジノ法案での「日本らしい丁半博打を〜」はあ〜、今頃丁半博打あんのか?采本引きの事か? なんちゃって不良に憧れてんのか? 法律変えて不良の真似事したいんか? 賭博罪は脱税と一緒か? 税金払ったらええんか? 

    道義や秩序は長い歴史が作り上げた産物やのに法律は風や力で簡単に変えれますな。これも変革?

    高いカネ払ろて法律や経済教えてもろて何を学んだの? お金儲けだけ学んだの? はっきり言うけどデフレ時に伸びた産業ってヤクザ屋さんが昔からしてたやり方を形変えてやってるだけやで。

    話だけ聞いたり本読んだだけで解ったフリせんと、解らん事には手を出すな! 解らん事は歴史を見ろ! 

      1. 神奈川県skatou より

        同感です。
        不良ぶる大卒なお方ほど、9条教徒のような、とてもお幸せな方だと思われます。

  2. 神奈川県skatou より

    「狂気制御のインフラ」、とても高度なお話だと感じました。

    会社でもビジネスを生み出す世界はやくざな側面をお持ちの方を活かす場合も少数あります(不良ぶる、でなく、プライベートはスジ周辺に堕ちたお方;;;アハ)。が、組織とは局所を拡大したり偏在させたりする力がありますので、その負の側面を一定数の部下に固着させて活動を殺してしまう、ブラックの可能性もあります。
    (意味的ブラック、構造的ブラックでない)
    (見えにくく死にやすい、とても危険なものです)

    それを制御するには、かなりの洞察や経験などがいりそうで、それこそマネージャの資質かと思われます。(書物の経営論などではない)(全部腐ったら切って捨てる、とか)

    でも現実では失点しない、上に従順な洞察の逆の、きわめて既知な枠組みの兵隊がマネージャ層へ昇進するのが常であります。

    なので人事というのも、実は制度ではそれを成し得ない、言語化しにくい、きわめて人間的な過程が必要と言えそうです。

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