コラム

2016年3月30日

【佐藤健志】国家の店じまい

From 佐藤健志

——————————————————-

【PR】

千兆円を超えたと言われる債務金額の真相
これほどの金額を公共事業に使ったのに、なぜ日本の景気は
回復しないのか?行き着く先は財政破綻なのか?

その答えはこちら
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

——————————————————-

先週のメルマガでは、日本経済新聞が3月10日に配信したインタビュー記事「『戦後』から『災後』の日本を憂う 御厨東大名誉教授に聞く」を取り上げました。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO97981080T00C16A3000000/?dg=1

政治学者である御厨貴さんは、東日本大震災発生直後、政府が組織した「復興構想会議」の議長代理を務めた人物ですが、驚くべき発言をしています。

いわく、被災地各地から提出された復興計画には、過疎の解消による人口増加など「明るい未来」を描いたものが多かった。
御厨さんをはじめとする復興構想会議は、それを見て「僕らの思いと違う」とショックを受けたそうなのです。

ならば復興構想会議は、震災後の東北の未来を暗いものと思い描いていたことになります。
とはいえ、どのみち暗い未来しか待っていないのであれば、復興を推進する理由はありません。
「復興構想」の名称とは裏腹に、〈もう東北はダメだから見捨てよう〉というのが、会議のホンネだったのではないでしょうか?

ついでに「僕らの思いと違う」という発言には、〈被災地の人々の希望より、自分たちの考えのほうが優先されて当然〉という含みもある。
大災害に苦しんでいる人々に寄り添うつもりなど、最初からなかったのではないか、そう疑われても仕方ないところです。

何というか、二重三重にとんでもない話なのですが・・・
岩手県の達増拓也知事は、先週のメルマガの内容に関連して、次のようにコメントしました。

経済は市場にまかせ、民生は地方にまかせ、国家が店じまいするように、人口減少で地方が末端から消滅するのが必然とばかり、大震災を奇貨(=予想外のチャンス)として地方消滅の加速を図ろうというのは良くない。
https://twitter.com/tassotakuya/status/712980527293140992
(カッコは引用者)

まったくの正論です。
だいたい地方が疲弊どころか消滅してしまうようでは、中央の命運だって知れたもの。
各地方がそれぞれに成長・繁栄してこそ、国は発展するのです。

同時に注目していただきたいのが、「国家が店じまいするように」というフレーズ。
これによって知事は、震災復興をめぐる問題を、より大きな問題に結びつけています。

かりに日本が、「いずれ店じまいすると決めた商店」だとしましょう。
その場合、店じまいまでの経営方針はどうなるでしょうか?
普通に考えれば、こうですね。
1)現行業務の段階的縮小。
2)中・長期的な投資の中止。
3)目先の利益の確保。

しかるにお立ち会い。
1990年代後半いらい、わが国では構造改革路線や、新自由主義的な経済政策のもと、以下のような方針が取られてきました。
1)規制の緩和や撤廃、および国営・公営事業の民営化。
2)財政出動 (とくに公共事業)の抑制。
3)財政均衡へのこだわり。

おっと!
ぴったり重なるではありませんか。

達増知事のコメントが、「経済は市場にまかせ」というフレーズから始まっているのは、関連して意味深長。
つづく「民生は地方にまかせ」にしてもそうです。
国家との対比で使われている以上、この「地方」は地方自治体を指している。
ゆえに「地方にまかせ」とは、「民生は各自治体の問題だとばかり、地域間格差を解消しようとせず放置する」ということなのです。

そのような市場原理主義と自己責任論の組み合わせのもとでは、疲弊した地方で人口減少が進もうと、「発展できなかったほうが悪い」として片付けられてしまう。
よしんば消滅したところで、「日本が新たな発展を遂げるための不可避的なプロセス」ということになるでしょう。

となれば、震災で大きなダメージを受けた地方については「もうダメだから見捨てよう」となるのが当然ではありませんか。
御厨貴さん風に言えば、「もともと東北は過疎問題を抱えていた。そのまま復興してもしょうがな(い)」です。

すなわち達増知事のコメントの真意は、
〈構造改革や新自由主義は、「国民の生活を守る」という国家の役割を店じまいさせようとするものであり、それはやがて疲弊した地方の切り捨てにいたる〉
だと言えるでしょう。

しかしすでに述べたとおり、地方が疲弊・消滅してしまうようでは、中央の命運とて知れたもの。
「国家の店じまい」の行き着く先は、国全体の疲弊・消滅なのです。

けれども現在の日本では、「国家の店じまい」に魅力を感じる人々が少なからず存在するらしい。
たとえば自民党の法務部会長である丸山和也参議院議員は、さる2月、同院の憲法審査会でこんな発言をしました。

日本がですよ、アメリカの第51番目の州になるということについてですね、例えばですよ、憲法上どのような問題があるのかないのか。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/02/17/maruyama-slip-of-tongue_n_9251242.html

丸山議員によれば、日本がアメリカに併合されることには、集団的自衛権が問題にならなくなるうえ、ゆくゆくは「アメリカ合衆国日本州」の人間が大統領になれる可能性も出てくるなど、さまざまな素晴らしいメリットがあるそうです。
ただしそれが主権の消滅という、究極的な「国家の店じまい」を伴うことは、まったく問題にされていませんでした。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』でも論じましたが、現在の日本ではさまざまな分野で、「キッチュ」と呼ばれる思考停止が生じています。
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/

「国家の店じまい」を望ましく感じてしまう傾向もその一つ。
こういった思考停止を脱却しないまま、いたずらに変革を志向することは、自滅的な結果を招きます。

日本を取り戻そうとする前に、われわれはまず、健全な思考能力を取り戻さねばならないのです。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)震災復興を謳いながら、被災地が「明るい未来」をめざそうとするとショックを受けるという、どうしようもないパラドックスはなぜ生じるのか? 詳細はこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

2)東日本大震災が持つ歴史的・社会的な意味合いについては、この本で徹底的に論じました。

『震災ゴジラ! 戦後は破局へと回帰する』(VNC)
http://amzn.to/1lXtSsz

3)「国家の店じまい」を望ましく感じる傾向は、戦後史の論理的な帰結でもあります。詳細はこちらを。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

4)不条理な戦後史の根底にある、より本質的なジレンマについてはこちらを。

『夢見られた近代』(NTT出版)
http://amzn.to/1JPMLrY(電子版)

5)「まずは地元を愛してこそ、国という大規模で高次元なものにたいし、個人的な事柄のごとく愛着が持てるようになるのだ」(230〜231ページ)
地方消滅は、やはり国家消滅への道なのです。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

6)「われわれ一人ひとりが、隣人にたいし、心からなる友愛の手をさしのべる時が来た」(237ページ)
これぞ健全なナショナリズム、あるいは「絆」というものです。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

—メルマガ発行者よりおすすめ—

【PR】

千兆円を超える政府の債務金額に恐怖を感じていませんか?
まずはこれを見てください。
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

関連記事

コラム

【施光恒】TPP──米国やカナダから学ぶべきでは?

コラム

[三橋実況中継]グローバリズム対民主主義

コラム

【小浜逸郎】福沢諭吉は日本の「周回遅れ」を憂えていた

コラム

【佐藤健志】デペンデンス・デイ、または現実とポップカルチャー

コラム

【佐藤健志】2021年、日本の若者は海外で戦死する(らしい)!

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】決して許してはならない凶行

  2. 日本経済

    【三橋貴明】聖徳太子の英雄物語

  3. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】成田悠輔氏の「老人集団自決論」が論外なのは、...

  4. 日本経済

    【室伏謙一】「金融緩和悪玉論」を信じると自分達の首を絞...

  5. 日本経済

    【三橋貴明】聖徳太子の英雄物語

  6. 日本経済

    【三橋貴明】政府債務対GDP比率と財政破綻は関係がない

  7. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】『2023年度 国土強靱化定量的脆弱性評価・...

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【3月14日に土木学会で記者会見】首都直下地...

  9. 日本経済

    【三橋貴明】無知で間違っている働き者は度し難い

  10. 日本経済

    【三橋貴明】PBと財政破綻は何の関係もない

MORE

タグクラウド