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2015年12月1日

【藤井聡】日本は「米利上げショック」に備えよ

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

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【YouTube】

本当に経済学は経済を良くするのか?
https://youtu.be/T7qPdljmVfg

TPPは日本の植民地化を進めるのか・・・?
https://youtu.be/ntQpHSDoyjY

三橋貴明が自らの目で確かめた中国”鬼城”の実態とは?
https://youtu.be/YkvY94zM_yc?t=4m16s

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いま,グローバル経済は,上海株式市場ショックに端を発する「中国危機」や,ギリシャ危機とフォルクスワーゲン問題でその危機が顕在化しつつある「ユーロ危機」の直撃を受けかねない,大変に危ない状況にあります.

ですが,それらのショックが顕在化する以前に,

 「米国の利上げ」

の問題が,世界経済に深刻なショックを与えることが危惧されています.

http://jp.reuters.com/article/2015/11/13/analysis-2016-emg-credit-crunch-idJPKCN0T20GP20151113

アメリカは,リーマンショック後の景気回復のために,低金利政策を採用し続けてきました.

ところが,FRBは今,昨今の米国経済の景気回復を受けて,そろそろ低金利政策を終え,「利上げ」をすることを検討しています.

つまり,これまで米国FRBは,景気回復のために「金融緩和策」を続けてきたのですが,失業率が5%にまで低下するなど,一定の成果が得られたということで,「金融引き締め」の方向に舵を切ることとなったという次第です.
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/129957/111200039/

いわば,FRBは,これまで続けてきた金融緩和策の「出口戦略」を実行しはじめた,といことです(言うまでもなく,今,異次元緩和を行っている日本も,そのうち同様の事を検討する時期が早晩訪れることになります).

もちろんFRBはアメリカ経済のためにそうした方針転換を図るわけですが,これが,アメリカ以外の「グローバル経済」にも深刻な経済危機をもたらすことが真剣に危惧されています(なお,その懸念のために,利上げを引き延ばす可能性は今日でも皆無ではないと……思われますが……今回だけは,かなりの確度で利上げすることが予期されています).

まず,上記ロイター記事に記載されているように,

「ドルが再び上昇を始める一方、中国からマレーシア、ロシア、さらにはトルコ、メキシコ、ブラジルに至る新興市場諸国で企業・家計の債務が警戒水準まで積み上がっている」

状況にあります.つまり,こうした新興国市場では,多くの投資家が「債務残高が多くても(つまりどれだけ借金をしても),デフォルトは少ない(破綻するリスクは少ない)」とい状況の恩恵を受け,多くの借金を積み重ねてきたわけです.

その背景には,リーマンショック後,世界各国が「金融緩和」を測り,大量のマネーが各国の市場に供給され続けてきたからです.つまり,過剰なグローバルマネーが供給され続けてきたので,誰がどれだけ借金をしても「破綻」(デフォルト・債務不履行)となるリスクが最小化されていた,という次第です.

そんな中で,アメリカFRBが「利上げ」を敢行すれば,新興国に投入されてきた大量のグローバルマネーがアメリカへ流出することとなります.

なぜなら,FRBが利上げをすると,アメリカ市場に資金を投入した方がより多くの利息を稼げる,ということになるのですから,新興国市場に大量の資金を投下していた多くの投資家たちにしてみれば,その資金を回収してアメリカ市場に再投下する方がより合理的になるからです.

その結果,経済ショックが起こるのではないか……ということが懸念されているのです.

ロイターの記事曰く,この米国利上げが,2007─08年のサブプライム住宅ローンの崩壊に始まる一連の銀行倒産を第一波、2011─12年の欧州債務危機を第二波とした,

「信用崩壊の第3の波」

となることが懸念されているのです.

なぜなら,新興国市場に投下されていた資金が(より高い金利を目指して)米国市場に流れていけば,新興国市場で資金不足が生じ, 多くの民間主体の資金繰りが厳しくなっていくからです.つまり,新興国市場でさらにお金を借りようとしても,貸し手が少なくなり,資金の調達が難しくなる,という次第です.

それだけで,多くの民間主体の資金調達が不能となり,債務不履行,倒産の危機を迎えることとなります.

ですがそれと同時に,債務不履行にならなかった民間主体においても,資金調達を企図して金利が高くなっていくことになります.つまり,米国の利上げが,新興国にも一部伝播していくことになるわけです.そうなれば,大量の借金を抱えた債務者が,その利払いのためにデフォルトの危機を迎えていきます.

こうして,新興国市場内で多くの企業が倒産していくことになるのですが,こうした倒産はもちろん,さらに連鎖的に広まっていくことになります.さらには,こうした被害は,民間主体のみでなく,新興国の国債市場にも広がっていくことになります.

結果,2007─08年のサブプライム住宅ローン危機,2011─12年の欧州債務危機に続く「第三の危機」が,米国利上げによって引き起こされることが懸念されているのです.

さて,こうなればもちろん,日本にも影響が及びます.

第一に,新興国市場と同様に,日本市場から米国に向けて資金が流出していくことが懸念されます.ただし,これ以上に深刻な問題は,新興国が経済危機を迎えることで,彼らが日本からの輸出を引き受けることができなくなる,という問題です.

リーマンショックの時には,27兆円もの輸出の激減がもたらされました.それによって,我が国は大きな被害を受け,多くの会社が倒産し,失業者が大量に生ずることとなりました.

今回は,世界最大のマーケットである米国経済が収縮するわけではありませんから,リーマンショックほどの被害は受けないのではないか,とも考えられますが,この米国利上げで被害を受ける「新興国」とは,中国やアジア諸国といった日本と関係が深い諸外国が多いのが実情です.

したがって,日本への被害は,より直接的なものとなることが懸念されるわけです――.

いずれにせよ,米国利上げは,年内に行なわれる見通しであることが様々に報道されていますから,以上に論じた危機は,ほぼ間違いなく,起こるのではないか――と懸念されるわけです.

なお、先のロイターの記事は,次のような言葉で締めくくられています.

「先送りされてきたFRBによる利上げは火花を1回起こすだけかもしれない。しかし、可燃物がたっぷり積まれているのは確かなのだ。」

恐ろしい話,であります―――日本経済の政策担当者も,この警告は重く受けておくべきであることは論を待ちません

そもそも我が国の経済は,消費増税の影響を未だに引きずっており,二期連続のマイナス成長問となり,定義上「リセッション」(景気後退)の局面に至っているのは周知の事実です.

そして冒頭で指摘したように,中国危機,ユーロ危機も深刻に懸念されている状況ですから,2016年は,それなりの覚悟でもって,我が国は経済運営を図る必要があるでしょう.

この認識に立てば,補正予算も来年当初の通常国会にて10兆円程度用意する覚悟の下で議論を重ねると同時に, 2017年の消費増税も見直すこともまたタブー視せず,正々堂々と議論していくことも,当然必要だということになることでしょう.

いずれにせよ,我が国の経済政策担当者が,適切な危機意識と現状認識能力を保持していることを心から祈念したいと思います.

PS この危機を乗り越える方途にご関心の方はぜひ,下記を改めてご一読ください.

「超インフラ論」
http://www.amazon.co.jp/dp/4569826342

—メルマガ発行者より

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本当に経済学は経済を良くするのか?
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TPPは日本の植民地化を進めるのか・・・?
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三橋貴明が自らの目で確かめた中国”鬼城”の実態とは?
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【藤井聡】日本は「米利上げショック」に備えよへの5件のコメント

  1. はっちゃん より

    大阪のこと、そしてアメリカの利上げのこと、藤井教授は問題が大きくなって手遅れになる前に手を打つよう呼びかけられているように思います。しかもその両方で全体主義と対峙されているようにお見受けします。大阪の方はとても典型的ですね。多数決崇拝、嘘と詭弁にまみれたプロパガンダ、言論封殺。まあ、大阪に関してはこれらの要素の実例をわざわざ専門家にあげてもらうまでもなく、すぐに思いつきます。維新支持派の方々でももしかしたら思いつくかもしれません。「アメリカの利上げショックに備えよ」と呼びかけられても、日本の「高いポストに就く」学者の多くが財政出動、公共事業の意見を無視し(私が直接目の当たりにすることはないですが)、新聞や報道番組もそのほとんどが「改革」を支持して財政出動は悪者扱いしたりするので、結果世の中の多数の意見が「財政出動して利上げショックに備えよ」となることが難しくなる。これって、大阪のようには加害者がはっきりわかりにくいのですが、言論封殺、嘘や詭弁、プロパガンダがあり、結果特定の間違った考えの多数派が出来上がり、口に出さなくても世の中がそう動く。ご著書でも書いておられたかもしれませんが、全体主義なんじゃないかと思いますね。ところで多数決崇拝について、私は小5ぐらいの頃こんな体験をしました。先生が「ビーカーに100ccの水と30グラムの塩が入っていて、底に少し溶けなかった塩が残っています。そこへ20グラム塩を加えました。上澄み液は塩を加える前と加えた後、どちらが濃いでしょうか?」と言ってクラス全員に挙手させたとき、私以外全員「塩を加えたほうが濃い」と手を挙げ、私一人が「同じ」と手を挙げました。多数が正しいなんて思えるわけがないですね。我ながらいい体験したと思っております。小学校では先生がいて、このあと答えを言って終わります。しかし、大人の社会ではどうでしょう?もう、これ以上塩入れても溶けないから底に残っているのです。簡単なことです。しかし、そこへさらに塩を入れ続ける愚、さらに多数がそれを正しいと信じて支持する愚。「これはもうその辺にして、ほかのやるべき勉強をしよう」と言っても聞く耳持たない愚。ここに先生はいませんし、どこかに答えが書いてあるわけではありません。これだけでもうんざりしますが、実際今行われていることは塩水作りではないですからね・・・。

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  2. きらきら より

    大阪の詐欺師、国政の詐欺師については、あきらめて、名古屋あたりで、超インフラ論をやって実績をだしたらどうでしょうか?そうすれば、詐欺師共は権力欲については旺盛なので、きっと真似しますよ。自動車関連の企業も多いので、少なくとも道路関係のインフラは作りやすいと思います。

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  3. たけちゃん より

    藤井先生 アメリカ利上げで外需依存の安倍晋三政権が退陣する事を希望します、と同時にTPP反対の機運が盛り上がり一片の反故となるよう祈ります。

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  4. 學天測 より

    藤井先生はスマートガバメントという概念を御存知ですか?公式の定義は私もよくわからないので、色々言われておるようですが、私は今の時代に合わせて、競争力ある創造的な民間組織の構築と活動を支援する、最適なサイズの競争力ある創造的な行政サービスを行う政府と捉えております。実際はよくわかりませんけど。まあ、おそらく周回遅れで当たり前の概念で民間を組織化して、生産性を上げ、イノベーションの速度を速めるという政府の本業を捉えなおし、民営化もそのために完全民営化一辺倒のスモールガバメントではなく、政府の本業を強化するための事業分離の民営化と言う事でしょうかね?詳細は解りません。私も情報不足ですから。スマートガバメントでもなんでも、ともかく自国の経済を強くする事でしょう。経済も国土の一部でありますから強靭化頑張ってください。先生の売りは実践ですから大阪市長選の様にチェック的な外野の野党の立場ではいけません。評論家ではなく実践者としての在り方を期待しております。この状況でやるべき事をどう実践できるかであります。

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  5. 拓三 より

    なぜ、前回増税先送りした後、これと言った景気対策を撃たなかったのか。そしてなぜ、年内に補正を組まなかったのか。米国の利上げに責任転換し、再度増税先送りを断行する作戦だと思います。たぶん増税は先送りされるでしょう。(凍結ならなおさら良い)私が心配するのは、その後の『ショックドクトリン』的な政策の行方で御座います。経済は低迷していても財務省に勝ったという勲章が与えられます。(参院選勝利)この大きな力がどちらの方向に進むのか。来年の国会はTPPをはじめ重要項目がめじろうしで御座います……….嫌な予感が。大阪W選をはじめ、この「改革が〜グローバルが〜」のヘタレの言い訳で過ぎない政策が支持されるこの大衆社会があるかぎり、増税阻止もただの誘導作戦に過ぎないのです。増税阻止を有効にするか?しないか?は国民で御座います。

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