アーカイブス

2015年7月8日

【佐藤健志】ターミネーター新起動

FROM 佐藤健志

——————————————————-

●●月刊三橋の次号(7/11配信)のテーマは、「歴史認識問題」です。
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

——————————————————-

ターミネーター新起動

佐藤健志

「ターミネーター」シリーズの映画版最新作、「ターミネーター新起動」(アラン・テイラー監督)が、この金曜、7月10日より公開されます。
今回はシリーズ初の3D上映もなされますよ。
公式サイトはこちらをどうぞ。
http://www.terminator-movie.jp

このシリーズ、1984年の「ターミネーター」(ジェームズ・キャメロン監督。以下「T1」)を皮切りに、
1991年の「ターミネーター2」(同。「T2」)
2003年の「ターミネーター3」(ジョナサン・モストウ監督。「T3」)
2009年の「ターミネーター4」(マックG監督。「T4」)
と続いており、「新起動」は5作目。

「新起動」には「ジェニシス」というルビが振られています。
この言葉、劇中で重要な意味を持つのですが、ネタバレになるので解説は避けましょう。
それはともかく。

ヒット作の続編というものは、「すでに知名度があるから当たりやすい」ように思われがちですが、面白くするのは意外に難しい。

前作と同じことを繰り返すだけでは、観客は納得しません。
といって、前作の世界観を否定するようなことをやらかしても、やはり観客は納得しない。

つまり「すでに確立されている世界観を尊重しつつ、新鮮なことをやる」のが、続編を成功させるための条件となります。

しかるにこの話、どこかで聞いたような気がしませんか?
そうです。
続編を成功させるための条件は、保守主義の立場に基づいてシステムを改革するときの条件と、ぴったり同じなのです。

おなじみエドマンド・バークは「フランス革命の省察」において、保守主義の発想は「新たな自由や権利を獲得する余地を十分に残す一方で、いったん獲得されたものが安定的に存続することも保障する」境地をめざしていると指摘しました。

それによって「改革がなされても社会全体が新しいわけではなく、伝統が保守されても社会全体が古いわけではない」状態を達成すべしと説いたのですが、ならばすぐれた続編は、保守主義の原則を踏まえて生まれると言えるでしょう。

詳細はこちらを。
「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj_(紙版)
http://amzn.to/19bYio8_(電子版)

さて、「ターミネーター」シリーズは、この点から見てどうだったか。

シリーズの生みの親であるジェームズ・キャメロン監督が手がけたT2は、文句なしの成功例です。

ご存じの方も多いでしょうが、「ターミネーター」は人類と機械との闘争を描いた物語。
機械側は勝手に核戦争を始め、人類を滅亡に追いやろうとするものの、ジョン・コナーという救世主が登場、形勢を逆転させる。

すると機械側は、ジョン・コナーを抹殺すべく、人間型の暗殺ロボット「ターミネーター」を過去に送り込みます。
ジョンの母であるサラ・コナーを殺してしまえば、救世主が生まれることもなく、形勢はふたたび逆転するのです。

他方、人類側からも、サラを守るべく、カイル・リースという戦士が過去に向かう。
こうして人類の命運を賭けた戦いが、一見平和そうな核戦争前の世界で展開されるわけです。

T2はこの世界観を踏まえつつ、前作でターミネーターを演じたアーノルド・シュワルツェネッガーを、「プログラムの書き換えにより、人間側の味方になったターミネーター」という役柄で登場させました。
そして新型の悪役ターミネーターとの死闘を、(当時としては)画期的なCGを導入して描いたのです。
結果は前作を上回る大成功。
シリーズの保守は達成されました。

しかし三作目で、シリーズは道を踏み外す。
簡単に言ってしまえば、T3はシュワルツェネッガーが悪役ターミネーターと戦うという、T2の繰り返し(より正しくは焼き直し)でしかなかったのです。
ついでにT3の悪役ターミネーターは女性の姿をしていましたが、じつはこれ、T2の構想段階で検討されつつも、あまりにマンガチックだとして没になったアイディア。
「アーノルド対あばずれ」と呼ばれていたそうです。

T3、「伝統の踏襲」の方向に行きすぎてしまったんですな。
内容的に不評で、興業面でも振るわなかった(ギリギリ赤字にならなかった程度と伝えられます)のは当然でしょう。

逆に「抜本的改革」の方向に行きすぎたのが「T4」。
なにせこの作品、核戦争後の世界が舞台なのです。

「人類の命運を賭けた戦いが、一見平和そうな核戦争前の世界で展開される」のが、シリーズのポイントだったのですから、のっけから別物になってしまったと言わねばなりません。
しかもT4、シュワルツェネッガーが出演していない!(※)

(※)厳密にはラスト近くで束の間登場しますが、これはT1の彼の映像を、別のボディビルダーの身体とデジタル合成してつくったものです。

ちょうどカリフォルニア州の知事をやっていたので、撮影に参加するわけにはゆかなかった、というのがその理由。
もっともな話ですが、彼がいないことには、やはり「ターミネーター映画」とは呼べません。

ウィキペディアによると、T4の興業はT3以上に振るわず、ついには製作会社がつぶれてしまいました。
ショービジネスは甘くないのです。

で、今回の「新起動」となるのですが・・・

この作品、シリーズの保守について非常に自覚的。
バークの言葉をもじれば、「新たな創意工夫を盛り込む余地を十分に残す一方で、最初の二作で確立された世界観が安定的に存続する」ことをめざしている。

「新起動」の冒頭30分ぐらいは、T1とT2のダイジェスト的な総復習になっています。
つまりは伝統の踏襲から始まるのですが、オリジナルにはなかった場面や、微妙に異なる描写が多々盛り込まれ、〈たんなる繰り返しにはならない〉ことが打ち出されました。
T1とT2を同時にダイジェストしてしまうこと自体、〈どちらとも違う〉という暗示なんですね。

そしてその後、物語は新しい展開へと踏み出す!
ただしここでも、「人類の命運を賭けた戦いが、一見平和そうな核戦争前の世界で展開される」という大枠が守られているため、T4のような行き過ぎにはなっていません。

しかも「新起動」では、シュワルツェネッガーが戻ってくる。
T1から30年あまり、かつての若さはさすがにないものの、映画はこの点を隠そうとせず、正面から向かい合っています。
なにせ今回、彼の決め台詞はこれなのです。
「俺も年を食った。だが時代遅れにはなっちゃいないぜ」

「ターミネーター新起動」、単純にエンターテインメントとしても楽しめますが、「保守を達成するには、どんなバランス感覚が求められるか」という点を考えながら観ると、いっそう興味深いでしょう。

なお来週は都合によりお休みします。
7月22日にまたお会いしましょう。
ではでは♪

PS
長崎の「軍艦島」は「日本のアウシュビッツ」にされてしまうのか?

「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録問題に関して
日本が犯した致命傷になりかねないミスとは?

月刊三橋の次号(7/11配信)のテーマは、「歴史認識問題」です。
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

PPS
今月号のテーマは「地方再生」。大阪都構想、新型交付金、「人口減少」論の罠をぶった斬り。
7/10まで。

<佐藤健志からのお知らせ>
1)7月31日(金)、表現者シンポジウム「戦後70年 隘路(あいろ)にはまるか、日米同盟」にパネリストとして登壇します。
詳細は以下の通り。

会場 四谷区民ホール(18:30開場、19:00開演、21:00終演)
他のパネリスト 佐伯啓思さん、白井聡さん、中島岳志さん、富岡幸一郎さん、西部邁さん。
会費 1500円

参加ご希望の方は、お名前、ご住所、お電話番号、参加人数などをご記入のうえ、郵送、ファックス、メールのいずれかにて西部邁事務所までお申し込み下さい。連絡先は以下の通りです。

郵送の場合 〒157-0072 東京都世田谷区祖師谷3-17-22-303
ファックスの場合 03-5490-7576
メールの場合 hyogensha@gaea.ocn.ne.jp

なおメールで申し込まれる場合は、スパムと混同されないため、件名に「表現者シンポジウム参加希望」と明記して下さい。

2)「ターミネーター」シリーズについては、この本に収録された「ターミネーターの逆説」でも詳しく論じました。
「夢見られた近代」(NTT出版)
http://amzn.to/18IWkvl(紙版)
http://amzn.to/1JPMLrY(電子版)

3)エンターテインメントにおいてすら、保守を達成するにはパラドックスに直面する必要がある!
国や社会の保守をめざす場合は、なおさらでは?
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

4)パラドックスに直面しないまま70年を過ごすと、どうなるかという記録です。
「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

5)「アメリカは巨大な劇場である。世界を変えるドラマ(注:独立達成のこと)が、もうすぐそこで演じられる」(280ページ)
われわれもこのような気概を持ちたいものです。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

6)「表現者」61号(MXエンターテインメント)に、評論「汝の右手がなすことを」が掲載されました。

7)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

関連記事

アーカイブス

[三橋実況中継]日本を守る壁

アーカイブス

【三橋号外】狂気

アーカイブス

【島倉原】「リフレ派」全体主義

アーカイブス

【藤井聡】超インフラ論

アーカイブス

【藤井聡】大阪都構想(2):「大阪市民に,自分たちの市を解体して5つに分割してもよいですか?」を問う投票

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【室伏謙一】「金融緩和悪玉論」を信じると自分達の首を絞...

  2. 日本経済

    【三橋貴明】聖徳太子の英雄物語

  3. 日本経済

    【三橋貴明】政府債務対GDP比率と財政破綻は関係がない

  4. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】『2023年度 国土強靱化定量的脆弱性評価・...

  5. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【3月14日に土木学会で記者会見】首都直下地...

  6. 日本経済

    【三橋貴明】無知で間違っている働き者は度し難い

  7. 日本経済

    【三橋貴明】PBと財政破綻は何の関係もない

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【岸田総裁の政倫審出席はむしろ有害】岸田氏の...

  9. 未分類

    【竹村公太郎】流域共同体の誕生、崩壊そして再生 ―新...

  10. 日本経済

    【室伏謙一】財務省が金融引締め、そして緊縮増税へ向けた...

MORE

タグクラウド