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2015年4月15日

【佐藤健志】ゼイリブ(繁栄するのは奴らだけ)

From 佐藤健志

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●●憲法9条は日本の誇りなのか? 国家の危機の原因か?
月刊三橋最新号のテーマは「激論!憲法9条〜国家の危機に備えるために」

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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まずは先週の記事で提起した、「経済(活動)」と「ビジネス」の定義をおさらいするところから。
三橋貴明さんの著書『繁栄の絶対法則』(PHP研究所)に触発されたものですが、私なりにまとめればこうなります。

経済(活動)とは、「ある特定の共同体(国家、社会、地域など)に帰属する人々が、豊かで安心して暮らせることをめざす活動」の総称である。
ゆえに経済活動が、つねに効率よく利益をもたらすとは限らない。また根本の目標は「特定の共同体に帰属する人々の幸福」なので、当該の共同体とは密接不可分の関係がある。

ビジネスとは、「経済活動の中で、もっぱら効率よく利益をあげることを目標とするタイプのもの」を指す言葉である。特定の共同体の幸福が、この目標よりも優先されることはなく、ゆえに共同体と密接不可分の関係を形成する必要もない。

言いかえれば、
結びつくべき共同体が存在しないところに、「ビジネス」はあっても「経済」はない
ことになります。

しかるに今のところ、人間は国家以上の規模を持った共同体を確立するにいたっていません。
EUのように超国家的な性格を持った組織もつくられはしましたが、安定的に機能していると言いがたいのはご承知の通り。

となると「国際経済」も、本来の意味ではまだ確立されていないと見なすべきではないでしょうか?
冒頭の定義を当てはめれば、これは「国際社会に帰属する人々が、豊かで安心して暮らせることをめざす活動の総称」となるはず。

よって、国際経済が確立される条件は単純明快。
宮沢賢治さんの有名な言葉をもじれば、
「世界全体が豊かで安心な暮らしを送れるようにならないかぎり、誰も豊かで安心な暮らしを送っていることにはならない」
という意識の、地球規模における定着です。

前回記事で取り上げた濱口梧陵さんにしても、
郷里である広村全体が豊かで安心な暮らしを送れるようにならないかぎり、自分も豊かで安心な暮らしを送っていることにはならない」
と思ったからこそ、私財をなげうって堤防建設を行ったのに違いない。

しかし現実の国際社会に、これほど強固な連帯意識は存在しません。
なるほど冷戦期、とくに1970年ぐらいまでのアメリカには、「自由主義諸国全体が繁栄していなければ、社会主義陣営に取り込まれる国が出ないとも限らず、アメリカも安心して繁栄を謳歌できない」という意識が見られました。
1940年代末、同国が日本の経済復興を積極的に支援しだしたのも、貧しい敗戦国のままでは「共産主義の防波堤」として機能しえないという判断があったからです。

けれどもこのすべては、当時のアメリカがずば抜けた繁栄を誇っていたがゆえのこと。
アメリカが相対的に衰退し、冷戦も終わって久しい現在、「国際経済」を確立させる基盤は、以前と比べても脆弱になったのです。
とくに新自由主義に基づくグローバリズムは、「国際経済」ならぬ「国際ビジネス」の覇権を確立しようとするものではないでしょうか。

ここでご紹介したいのが、1988年のアメリカ映画『ゼイリブ』
『ハロウィン』や『遊星からの物体X』などで知られるジョン・カーペンター監督の作品ですが、じつはこの映画、SFホラー仕立てにこそなっているものの、内実は徹底した新自由主義批判なのです。

舞台となるのは、格差が拡大し、失業者のあふれる近未来のロサンゼルス。
主人公ネイダ(アメリカの社会運動家、ラルフ・ネーダーにちなんだネーミングでしょう)もホームレスですが、不思議なサングラスを手に入れたことをきっかけに、驚くべき事実に気づく。

そのサングラスをかけていると、街にあふれる広告や、新聞・雑誌などの記事、はたまたテレビ出演者の発言などが、まったく違ったものに見えたり、聞こえたりするのです。
すなわち、
「指示に従え」
「消費せよ」
「物を考えるな」
「眠ったままでいろ」
「権力者の言うままになれ」
という命令の洪水。

しかも街を行き交う人々のうち、豊かそうな連中に限って、骸骨のような顔をしたエイリアンだったりする!

やがて反体制グループと接触したネイダは、事の真相を知らされます。
地球は強欲なエイリアンによって(「第三世界」ならぬ)「第三惑星」と見なされ、経済的搾取の対象となっていた。
アメリカの富裕層はエイリアンと結託、メディアを使って人々を洗脳する一方、自分たちも暴利をむさぼっていた次第。
ネイダが見聞きした命令の洪水こそ、彼らがわれわれの無意識に植え付けようとしているメッセージだったのです!

「ローリング・ストーン」誌の特集記事(2014年10月27日付)によれば、カーペンター監督、劇中のエイリアンについて、ずばり「(新自由主義を支持する)共和党の連中さ」と語ったそうですが、「経済」と「ビジネス」の違いをここまで寓話的に浮き彫りにした作品も珍しいでしょう。
映画の後半には、エイリアンと結託した富裕層の男が、ワープ装置で他の惑星へと移動する場面が盛り込まれていたものの、共同体に根を下ろしていないビジネスは、都合が悪くなったら、いつでも別の場所に去ってしまえる。
残された共同体がどうなるかなんて、知ったことではないのです。

それどころか『ゼイリブ』には、貧困層の人々が助け合って暮らすスラム街(=共同体)を、富裕層の手先である機動隊が襲って破壊する場面まで登場しました
反体制グループは、スラム街の教会をアジトにしていたものの、教会が伝統的価値観の拠点(=共同体の精神的な基盤)なのを思えば、こちらも必然と評さねばなりません。

なお『ゼイリブ』という題名は、反体制グループが広めようとしているスローガン「THEY LIVE WE SLEEP」にちなんだもの。
直訳すれば「奴らは生き、われわれは眠る」。

ただし、ここで言う「LIVE」とは「繁栄を謳歌する」ことであり、「SLEEP」は「洗脳されたあげく、経済的搾取に甘んじる」ことですから、
「繁栄するのは奴らだけ、われわれは操られて搾り取られる」
とすべきでしょうね。

グローバリズムにたいして、どんな立ち位置を取るか。
それはまさしく、「経済」と「ビジネス」のバランスをどう保つかという問題なのです。
ではでは♪

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「豊かで格差のない日本」を残したいなら、、、

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PPS
4月号のテーマは、憲法9条。もうすぐ憲法記念日。そして、今年は戦後70周年。
いま改めて「戦後日本とは何か」を問い直せます。

<佐藤健志からのお知らせ>
1)戦後70年、日本人はみずからパラドックスに陥り、みずからを洗脳してきたのではないか?
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!
「毒をもって毒を制する、愛国者のためのワクチン」という趣旨のコメントもいただいています。

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
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2)一見、関係なさそうなもののつながりを探ると、事の真相が見えてくる。
現在の日本は、若い女性を中心としたやせすぎと、働き盛りの男性を中心とした太りすぎが同時に社会問題化するという、世界的にも類例のない国。
ところが「デフレ」(需要不足)の概念を導入すると、専門家も首をかしげるこの状態に、きれいに説明がつく!
経済と皮下脂肪の関連とは何か?

KADOKAWAのメルマガ「踊る天下国家」最新号、好評配信中です!
「経済と皮下脂肪のつながり〜やせすぎも太りすぎも『デフレ』だった!」。
1時間に及ぶ音声ファイルつきです。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar765958

バックナンバーもどうぞ。
どれも音声ファイルがついています。
「さらば、愛の行為よ〜日本で男女関係は成り立つか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar736635
「石原慎太郎から安倍晋三まで〜2015年はどんな年になるか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar706735
「アベノミクスの成否はゴジラに聞け!」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar691866
「日本再生のめまい」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar682207
「女性閣僚と風俗嬢の間」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar654550

3)4/16(木)発売の「表現者」60号(2015年5月号、MXエンターテインメント)に、「保守派の世界観はリアルか」が掲載されました。
最近、保守派の間で目立つ内部対立。その根底には、世界観の問題がひそむのではないか?
保守派の世界観も、「あの思想」のバリエーションにすぎないとしたら・・・
ご一読を。

4)戦後の日本人がどのように「眠って」きたかについては、この2冊もどうぞ。
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5)ポップカルチャーがいかに政治の真実を語るかについては、こちらを。
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6)「共和制が廃されて帝政となったあとも、ローマは周辺地域を搾取しつづけた。フランスでもそうなるかもしれない。この場合、専制君主が民衆をほめちぎり、人気取りをするという由々しい事態が起こる」(304ページ)
225年前の警告は、現在も生き続けています。
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7)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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