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2015年2月27日

【上島嘉郎】【安倍談話に望むこと】(番外)「有識者懇メンバー、ホントに危険すぎる?」

From 上島嘉郎@ジャーナリスト

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●世界を動かす力の正体とは?

https://www.youtube.com/watch?v=xSpcGUoATYk&feature=youtu.be

※※月刊三橋『激流グローバルマネー』より

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【安倍談話に望むこと】(番外)「有識者懇メンバー、ホントに危険すぎる?」

安倍総理が今夏に発表する「戦後70年談話」に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」の初会合が25日に開かれました。「安倍談話に望むこと」は、本質的な歴史の話を中心に書くつもりだったのですが、今回は番外として有識者会議のメンバーについて少し触れておきます。

メンバー発表にともなう報道を拾うと、産経新聞は、《70年談話 座長に西室氏、有識者会議16人決定 未来志向、安倍カラー前面》との見出しで、

「日本郵政社長の西室泰三氏(79)を座長、国際大学長の北岡伸一氏(66)を座長代理に据え」、
「メンバーには3人の女性のほか、幅広い年齢層の有識者を集め、歴史認識をめぐる表現に神経をとがらせる自民党ベテランや公明党に配慮した。一方で、“安倍シンパ”を多く起用、首相が目指す新たな未来志向の談話発表へ軟着陸を狙っている」(平成27年2月20日付)と伝え、

日本経済新聞は、《戦後70年談話、有識者会議の16人発表 バランス重視 》との見出しで、
中国や韓国には保守色の濃い談話になるのではないかとの警戒感が強い。政府はメンバーを各界から幅広く起用し、バランスに腐心した」
とする一方、
「安倍色もにじむ。北岡氏は安全保障に関する懇談会でも座長代理を務め、昨年5月、安倍氏の持論に沿った形で集団的自衛権行使を可能にする憲法解釈変更の提言をとりまとめた。今回も懇談会の議論を主導する見通しで、首相の主張を反映した報告書になるとの見方がある。
中西輝政京大名誉教授は中国や韓国に厳しい態度で臨む保守派の論客として知られ、第1次安倍内閣以来の首相のブレーンとみられてきた」
と報じました( Web版2月19日)。

いつもながら、はあっ!?と感じたのは、日刊ゲンダイ(Web版2月21日)で、《「戦後70年談話」有識者懇談会メンバーの危なすぎる発言録》との見出しで、
「やはり、結論ありきのアリバイづくりは明らかだ」、座長に就く西室泰三氏はともかく、「他の懇談会メンバーは過去の発言を読む限り、安倍首相と考えが近い“右寄り”のお友達ばかり」
だと決めつけました。

北岡伸一氏は、「テレビに出演した際には『歴代内閣の集団的自衛権に関する憲法解釈は間違っている』と主張。自衛隊の活動範囲についても『地球の裏側で行動することは論理的にあり得る。もっと乱暴に言えば、地球の外だってあり得る』と仰天発言し、

安倍首相と同様、早期の憲法改正を訴えている」人物で、中西輝政氏も「『SAPIO』(2月号)では、
<戦後70年の今年こそ、日本人は憲法改正に向け長い眠りから目覚めるべき>
<戦勝国により押しつけられ、主権や軍事力といった国家の基本的バックボーンを放棄した9条と前文がある限り、日本の平和と繁栄を安心して次の世代に受け渡せない>
と「歴史修正主義」を訴えるような“タカ派”で知られた論客だ」という。

さらに西原正・平和安全保障研究所理事長に対しても、同氏が産経新聞に書いた「『河野談話』をより正確なものに」と題するコラムに触れ、
「<河野談話には、不適切で信憑性が疑われる表現がある>と怒りをあらわにしていた。河野談話をハナから疑っているような人物をメンバーに入れるなんて正気じゃない」
と怒りを露わにする。

日刊ゲンダイの“芸風”といえばそれまでですが、私は、よくもまあここまでの決めつけ、放言ができるなと、我が国の言論の自由の有り難さを噛み締めるものです。

さて、ここで主要メンバーの過去の発言について補足しておきます。日刊ゲンダイは、
「ただでさえ近隣諸国がナーバスになっている『戦後談話』だ。重要な中身を論じる主要メンバーの主義・主張が、安倍首相と同じ“右寄り”では、それだけで中国や韓国を刺激するのは明らかだ」
と大層心配するのですが、たとえば北岡氏はこれまで歴史問題に関して何と語ってきたか。

北岡氏は小泉政権時代、今般の懇談会のメンバーにも選ばれた岡本行夫氏(当時内閣官房参与)が座長の「対外関係タスクフォース」のメンバーをつとめました。
首相に提出された外交基本戦略に関する報告書「21世紀日本外交の基本戦略」のなかで、対中関係について北岡氏は、「(日本側は)歴史の歪曲や、これに対する開き直りはとるべきではない」と記したことに触れ、それがメンバーの総意であるとし、
「開き直り的な歴史観が日本にないとはいえない。中国に侵略していないとか植民地支配していないとかという意見は明らかに開き直りだ」(平成14年12月21日付産経新聞)
と答えているのですね。

また、平成20年の「田母神空幕長“更迭”事件」の折は、朝日新聞の「私の視点」という欄に《トップの条件欠如を露呈》と題し、田母神氏の《日本は本当に侵略国家だったのか》という論考とその歴史観、自衛官としての氏をこう批判しました。

「田母神氏の論文には、事実の把握において、著しい偏りがある。(中略)歴史で重要なのはバランス感覚と総合的な判断である。いろいろな説や情報の中から、最も信頼できる事実を選び取る作業が重要なのだ。都合のよい説をつまみ食いしたのでは、歴史を理解したことにはならない。
論理においては、さらに矛盾や飛躍が多い。
田母神氏は、もし日本が侵略国家であったというなら、当時の列強はみな侵略国家であったと述べている。したがって、列強も日本も侵略したと言っているのかと思うと、別のところでは、日本は侵略していないという。矛盾していないだろうか。 (中略)
田母神氏の国際政治に対する見方は妙に自虐的、感情的である。氏は、ルーズベルトが日本に最初の一発を撃たせようとしていたとし、日本は彼と蒋介石によって戦争に引きずり込まれたという。そういう面もなかったわけではない。しかし、国際政治とは、しばしばだましあいである。自衛隊のリーダーたるものが、我々はだまされたというのは、まことに恥ずかしい。(後略) 」(平成20年11月13日付)

田母神氏の政治資金の一部が使途不明になっている現在の問題は措きます。紙幅に限りがあるので、北岡氏のみならず当時の田母神氏への批判の多くが次の一点を無視したことを指摘しておきます。
正確にいえば、田母神氏はこう書いたのです。

「もし日本が侵略国家であったというならば、当時の列強といわれる国で侵略国家でなかった国はどこかと問いたい。よその国がやったから日本もやっていいいということにはならないが、日本だけが侵略国家だといわれる筋合いもない」

田母神氏は日本も侵略をやって構わなかったとは述べていない。「日本だけが」そう決めつけられるのは公平ではない、と主張しているのです。そして東京裁判が、「あの戦争の責任を全て日本に押し付けようとした」結果、「そのマインドコントロールは戦後六十三年を経てもなお日本人を惑わせている。日本の軍は強くなると必ず暴走し他国を侵略する、だから自衛隊は出来るだけ動きにくいようにしておこうと」していると。

北岡氏の発言をもう一つだけ。座長をつとめた日中歴史共同研究の報告書発表の際にもこう語ってもいます。
「中国側は今回の研究で、日本が中国を侵略したことや南京虐殺を認めたことが成果だと言っているが、議論した結果そうなったのではなく、そもそも日本では多くの歴史家や政府も侵略と南京虐殺を認めている」(平成22年2月1日付読売新聞)

田母神論文を「検証に耐えない論拠でつづられている」と批判したもう一人が岡本行夫氏です。岡本氏は、北岡氏とジョン・ダワー米MIT教授の《『国を常に支持』が愛国か》との批判(これも)朝日新聞掲載)を田母神氏への「優れた論駁」と産経紙上で紹介しました((平成20年12月30日付)。

岡本氏は《なんのための教科書修正か》(平成19年7月13日付産経新聞)との論考で、いわゆる従軍慰安婦問題についてこう述べました。
「歴史というものは主観の産物になる宿命にある。(中略)それを一般化して語る時には、解釈者の主観が問われてしまう。慰安婦の境遇に同情しているのか、それとも何万人かの慰安婦は全員が自由意思、つまり金銭目当てだったと言っているのかと。

慰安婦問題について米下院で審議されている対日謝罪要求決議案。4月末に安倍首相が訪米した際の謝罪姿勢によって事態は沈静化し、決議案成立はおぼつかない状況になっていた。
しかし日本人有志が事実関係について反論する全面広告をワシントン・ポスト紙に出した途端、決議案採択の機運が燃えあがり、39対2という大差で外交委員会で可決され、下院本会議での成立も確実な状況になった。正しい意見の広告だったはずなのに何故なのか。
それは、この決議案に関しては、すでに事実関係が争点ではなくなっているからである。過去の事象をどのような主観をもって日本人が提示しようとしているかに焦点があたっているからである」。

また、沖縄戦における住民の集団自決問題についても、
「私にも『軍命令による集団自決』は、教科書にわざわざ書くほどの事象だったのかという疑念はある。しかし、既に書かれていた教科書の記述を、論争のある時に修正することは、『軍の関与はなかった』とする史観を新たに採択した意味を持つ。否定できない犠牲の歴史が沖縄にある時に、修正しなければならないほど重大な過誤が従来の記述にあったのか。歴史とは事実の羅列ではない。それを通じて生まれてくる主観である」と。

さらに南京事件についても、「もはや数字の問題ではなくなってきている。日本人からの反論は当然あるが、歴史をどのような主観をもって語っていると他人にとられるか、これが問題の核心であることに留意しなければならない」と。

岡本氏が述べるように、慰安婦問題も、南京事件も、沖縄戦における住民の集団自決に軍命令があったか否かの問題も、歴史の事実よりも今日的な意味での主観が大事だということになれば、「客観」的な事実を提示して誤解を解こうという努力にはまったく意味がないということになります。

北岡、岡本両氏への批判が目的ではないので、両氏の発言の摘記はこれにとどめますが、歴史を「どのような主観をもって語っていると他人にとられるか」が「問題の核心」であったとしても、事実関係は重要で、棚上げしてよいことではない。これが私の立場です。相手に受け入れられることを前提にする限り、主観どころか事実を曲げることを是としなければならなくなるでしょう。

「村山談話」にしろ、民主党政権時代の「菅談話」にしろ、その正体は「相手に受け入れられることを前提」にした産物で、そこには我が父祖の名誉と未来の国人の可能性を守る意識はなかったと言わざるを得ません。一体誰のための何のための談話なのか。

日刊ゲンダイの「危なすぎる発言録」という煽りに対し、北岡、岡本両氏の発言を取り上げましたが、「植民地支配と侵略」を認めた村山談話について「非常に重要で、その立場は変えてはいけないと思っています」という古城佳子・東大大学院教授のようなメンバーもいます。

菅義偉官房長官は2月19日の記者会見で「今度の懇談会は70年の首相談話を書くことを目的としたものではない」と述べ、懇談会の提言は談話作成の参考にすぎないとの見方を強調しました。「談話を作成するのはあくまでも官邸(安倍総理)」ということですね。

安倍談話が村山談話の踏襲になるのなら、出す必要はありません。「日本を、取り戻す」ための匍匐前進となること。少なくとも日本国民の内なる歴史解釈権の回復に資するものにならねばかえって禍根を深くします。

PS
三橋貴明のニュース解説サービス『月刊三橋』では、
あまりマスコミが取り上げないけれども、
日本の未来にとってとても重要な問題を毎月、徹底的に解説しています。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

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「今月のニュース解説」のほか、三橋貴明によるQ&A、特別コンテンツなど、
内容盛りだくさんでお送りしています。
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  2. たかゆき より

    踏み絵なんか踏むな♪上島さまの仰せのとおりです。植民地支配を日々謝罪している戦勝国が何処にございますか。。。戦争に負けるとはこんなにも惨じめなものかと痛感する毎日です。他国には土下座して謝罪するにもかかわらず米軍基地として日本の領土が占領されている事態には無関心村山氏と同じ踏み絵など踏まされずに戦争で亡くなられた方々にたいして心の中で手を合わせながら「踏み絵」を跨いで日本独自の道を進んでまいるべきかと存じます。

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  3. 神奈川県skatou より

    上島先生のお話、とても勉強になります。歴史認識、というのは史実の追求とは全く違う、価値観の殴り合い、あるいは今あるWASP的?なグローバルスタンダードでの序列の再確認なのかなと思えてきました。正論ならば通じるのか。96年ほど前にも、人種差別撤廃を叫んだ日本はどうなったのでしょうか。やるならやるですが、経済力、軍事力を強めてから、勝負したいところですね。ならば日本国民一人一人を強くする政策こそ採るべきはずです。規制緩和のような制度論を語る前に、政治家は夢かビジョンを語るべきではないでしょうか。自分ならば、未来はマスプロが当然の、その先の、生き延びよりも、生き様を追求できる日本はいかがかと。

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