アーカイブス

2014年12月17日

【佐藤健志】ふたつの祖国、ひとつの愛

From 佐藤健志@評論家、作家

——————————————————-

●『月刊三橋』12月号のテーマは「2015年の世界と日本はどうなる?」
世界はデフレ破局へと向かうのか? なぜ、マスコミの経済予測は信じてはいけないのか?

もし、あなたが、世界を正確に知り、嘘情報の被害に遭いたくないなら、、、

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

——————————————————-

酒井充子(さかい・あつこ)監督のドキュメンタリー映画「ふたつの祖国、ひとつの愛〜イ・ジュンソプの妻」が、12月13日より、東京の「ポレポレ東中野」で公開されています。
以後、全国で順次ロードショーの予定。

新聞記者出身の酒井さん、2000年から映画の制作・宣伝にたずさわるようになり、2009年、「台湾人生」で監督デビューを果たしました。
これもドキュメンタリー。
20世紀の台湾は、日本の植民地統治に始まり、国民党政府による長期の戒厳令、そして民主化と、さまざまな変化をくぐり抜けました。
それを生きてきた人々の経験と思いを、正面からとらえた秀作です。

みなさん高齢ですが、印象的なのは日本への思い入れの深さ。
明治天皇御製の和歌を暗唱し、二宮尊徳の教えを賞賛する人もいれば、「男に生まれていたら絶対、特攻隊に志願していた」なる旨を言い切った人もいるくらいです。
ただし戦後のわが国が、戦時中、日本のために戦った台湾人にたいして、補償はおろか感謝もしていないことには、少なからず不満も抱いている。

メッセージを正面切って打ち出すのではなく、事実をしてみずから語らせるのが酒井さんの作風。
ドキュメンタリーの王道です。
とはいえ「台湾人生」のメッセージを私なりにまとめるなら、
「親日とか反日といった二分法では割り切れない歴史を、われわれはアジアと共有している」
となるでしょう。

新作「ふたつの祖国、ひとつの愛」からも、同じメッセージが伝わってきます。
サブタイトルにある「イ・ジュンソプ」とは、日本統治下の朝鮮半島で1916年に生まれた画家。

生前は不遇で、1956年、39歳の若さで世を去ります。
しかし1970年代から、作品集や評伝が刊行されたり、生涯が映画化されたりと評価が高まってゆく。
今では彼を記念する美術館も建てられ、「韓国の国民的画家」と呼ばれています。
アジアの芸術家として、ニューヨーク近代美術館に初めて作品が収蔵された人物でもあるとか。

しかるにイ・ジュンソプさんの妻は、山本方子(まさこ)さんという日本人。
90歳を越えて、今でもお元気です。

酒井監督、現在の方子さんをとらえつつ、ジュンソプさんとの夫婦生活を描き出してゆく。
ジュンソプさん、東京の文化学院に留学していたことがあり、そこで方子さんと知り合いました。
こうして恋仲になるのですが、ちょうど戦時中。

1943年、展覧会を開くためにソウルへ向かったジュンソプさんは、戦況悪化のせいで、日本に戻れなくなります。
すると方子さんは1945年、連絡船が撃沈される危険を覚悟で朝鮮半島に渡り、現地で結婚。
イ・ナムドクという朝鮮名も持つようになります。

子どもも生まれ、しばらくは幸せだったものの、1950年に朝鮮戦争が勃発したせいで、一家は避難民生活を余儀なくされる。
方子さんは子どものことを考えて、日本の実家に身を寄せることにしました。
ところがジュンソプさんは同行できない。
日本と韓国の間に国交がなかったせいです。

1953年、ジュンソプさんが一週間だけ日本に滞在したのを別とすれば、そのあと夫婦をつないだのは手紙だけ。
200通以上のやりとりがあったと言われます。

ジュンソプさんが亡くなったあとも、方子さんは再婚せず、一人で子どもを育て上げました。
今でも左手には、ジュンソプさんとの結婚指輪がはめられているのです。
ちなみに方子さん、息子の泰成(やすなり)さんと同居していますが、泰成さんの仕事は額装の制作・販売。
父親の影響が感じられます。

ジュンソプさんと方子さんを、これだけ強く結びつけたものは何だったのか?
明確な解釈が打ち出されるわけではありません。

しかし「方子」と「ナムドク」が交錯する手紙の文面や、日本語と韓国語が入り交じる関係者へのインタビュー、さらには自宅で韓国風の料理を食べる方子さんの姿からは、一緒にすごした時間が短くとも、お二人が間違いなく人生を分かち合ったことが伝わってきます。
そしてあらゆる歴史は、個々の人生の積み重ねのうえに成立するのです。

対立や反発が注目されやすい日韓関係ですが、こんな「歴史の共有」もあるのだと再認識させられますね。
よろしければ、ぜひご覧下さい。

関連のURLをまとめておきましょう。
「ふたつの祖国、ひとつの愛」公式サイト
http://u-picc.com/Joongseopswife/index.html

上映館「ポレポレ東中野」公式サイト
http://www.mmjp.or.jp/pole2/

映画予告編
https://www.youtube.com/watch?v=JISS5epxzSc

ではでは♪(^_^)♪

<佐藤健志からのお知らせ>
総選挙が終わっても、いや、終わった後だからこそ、どうぞ!
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar682207
または
http://chokumaga.com/author/152/
平松禎史さんの記事(本紙12月14日配信)でも取り上げていただきました。

同時に、まずは戦後史の共有を!
http://amzn.to/1lXtYQM

そして12月20日、日本文化チャンネル桜の「闘論! 倒論! 討論!」(20:00〜23:00)に出ます。
http://www.ch-sakura.jp

PS
なぜ、民間エコノミストの経済予測は信用できないのか?
経済学の「嘘」を見抜いて世界と日本の動きを正確に知りたいなら、、、、
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

関連記事

アーカイブス

【藤井聡】菅長男接待問題は「菅政権の腐敗」を示している。これこそ、現在の日本における最大の問題である。

アーカイブス

【藤井聡】本日午後9時から、表現者クライテリオンプレゼンツ「参院選2022開票ライブ速報」を配信します!

アーカイブス

【佐藤健志】保守の対立概念は「反動」なんだってさ!!

アーカイブス

【三橋貴明】デフレ型経済成長

アーカイブス

【佐藤健志】ニューヨークから生放送、サタデー・ナイト!!

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】岸田総理は上下院議会演説が米国で評価されご満...

  2. 日本経済

    【室伏謙一】首長に求められる資質は何か?

  3. 日本経済

    【三橋貴明】ついに統計詐欺に手を染めた財務省(後編)

  4. 日本経済

    【三橋貴明】ついに統計詐欺に手を染めた財務省(前編)

  5. 未分類

    【竹村公太郎】公共事業と住民反対運動 ―進化は変わり...

  6. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】「スズキ自動車会長の鈴木修氏」を後ろ盾にした...

  7. 日本経済

    【三橋貴明】劇場型総選挙、再び

  8. 日本経済

    【三橋貴明】料理と製造業は似ている

  9. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【財務官僚イタコ曲「聞け!俺のインボイス」発...

  10. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】自民党「財政政策検討本部」講演報告 ~財務省...

MORE

タグクラウド