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2014年5月15日

【柴山桂太】次の危機が準備中

From 柴山桂太@滋賀大学准教授

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●三橋貴明の公式YouTubeチャンネルができました!
https://www.youtube.com/user/mitsuhashipress

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「影の銀行(シャドー・バンキング)」という言葉をよく目にするようになりました。これは2007年から出てきた言葉で、「通常の銀行システムの外部で行われる信用仲介」を指します。平たく言うと、銀行以外の金融機関による貸し出し一般のことです。

この「影の銀行」を通じた資金融通が、このところ急拡大していて、これが次の金融危機を準備しているのではないかという懸念が拡がっています。イギリスの雑誌エコノミストの最新号(5月10日号)がその背景を詳しく解説していますので、ここで紹介しましょう。

記事によると、影の銀行を通じた貸し出しは、金融危機の前後から急増しているとのこと。その額は2012年の段階で、グローバル金融全体の4分の1にあたる71兆ドル。これは10年前の3倍にあたる数字だそうです。(これは主要二〇カ国の数字です。)

急増の理由は、正規の銀行による融資が収縮しているからというのが同記事の分析です。金融危機で銀行が膨らんだバランスシートを圧縮していることに加えて、銀行部門に対する規制が強化されたことで生じた資金の需給ギャップを、非正規の金融機関が穴埋めしているという訳です。

以下のオンラインで読める記事から数字を拾うと、アメリカの法人向け銀行融資は危機前のピーク(2008年)から6%、ユーロ圏全体では11%、イギリスでは30%の減少とのこと。それを補うように、ノンバンクの貸し出しが伸びていることも示されています。
http://www.economist.com/news/special-report/21601621-banks-retreat-wake-financial-crisis-shadow-banks-are-taking-growing

そういえば日本でも、バブル崩壊後に消費者金融が急激に伸びた時期がありました。正規の銀行からお金が借りられないため、資金繰りに困った個人や企業が消費者金融に頼る。似たような構図が、バブル崩壊後の国々で繰り返されていると考えて良いでしょう。

上記記事のグラフを見ると、イギリスでは金融危機後に(法人向けが急減しているにもかかわらず)個人向け融資がまだ増えており、不動産バブルが続いているのだと考えざるを得ません。バブル崩壊の爆弾は、まだ世界のいろんなところに隠されているんですね。

最近では、ユーロ圏でも「影の銀行」問題が浮上してきました。
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0NY39K20140512

しかし最大の問題はやはり中国です。ふたたびエコノミストの記事によると、「影の銀行」部門は2012年だけで42%も成長しているとのこと。信託商品やマネーマーケットファンド(MMF)のようなバランスシートに乗らない資金調達部門が急拡大しています。いろんな貸し借りが重なっているため、誰のカネがどこに入っているのか不透明な、(H・ミンスキーの言う)ポンジー金融の状態に入っている模様です。

もっとも同記事によると、中国は「影の銀行」に対する規制を強化しつつあり、また中国は資本規制が厳しいため危機が起きても海外を巻き込む可能性が低いとして、わりと楽観的な結論を導いています。しかしこればっかりは蓋を開けてみないと分かりません。融資の急減も起きているとか。
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303565804579432063618854016?tesla=y

また、「影の銀行」を下手に救済すると、「やっぱり政府が保証してくれるんだ」という安心感からバブルがさらに助長されるという恐れもあります。世界全体を見ても、中国が残された最後の巨大バブルなわけで、あとはそれがどの程度の被害になるのかをめぐって識者の意見が分かれている、といったところでしょう。

中国だけの問題ではありません。正規の銀行規制を強化すれば、規制のゆるい「影の銀行」が拡大していきます。その一部を規制しようとすると、今度は別の部分で規制をすり抜ける動きが「金融イノベーション」と称して拡大していく。このいたちごっこはこれからも続くものと思われます。そうやって次の危機がまた準備されていくわけです。この連鎖を断ち切るためには、相当思い切った金融規制の強化を国内的にも国際的にも考えていくしかありません。願わくば、次の大きな危機が来る前に、です。

ところがこの状況で、まだ金融分野の規制緩和をやるという国があるようで。

「舛添要一東京都知事は10日夜、都内のホテルで安倍晋三首相と会い、成長戦略の一環となる国家戦略特区について、金融分野の規制緩和策を柱とする構想を5月半ばにも提案すると伝えた。舛添氏が「金融面で先進的なことをやる」との考えを示すと、首相は「大変いいことだ。思い切ったことをやろう」と応じた。」
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO69715830R10C14A4EE8000/

ズレ方が凄すぎて言葉が出ません。

PS
日本企業が中国から撤退し始めた本当の理由とは?
https://www.youtube.com/watch?v=Wzz3dqOIGrY

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お詫び(「新」経世済民新聞事務局)

【柴山桂太】次の危機が準備中への1件のコメント

  1. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >るためには、相当思い切った金融規制の強化を国内的にも国際的にも考えてい>くしかありません。願わくば、次の大きな危機が来る前に、です。そうです。「国際的にも」です。グローバルな危機は、グローバルにしか克服され得ない。国粋主義は、アカン。

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