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2014年2月7日

【施 光恒】「集まるの禁止!」の国

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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●三橋貴明の無料動画「日本企業が中国から撤退する本当の理由」
https://www.youtube.com/watch?v=Wzz3dqOIGrY

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おっはようございま〜す(^_^)/

先日、この記事が気になりました。

「ビッグデータ分析で、中国政府による検閲の中身が明らかに」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140124/258738/?rt=nocnt
(『日経ビジネス オンライン』2014年2月3日)

アメリカのハーバード大学のゲイリー・キング教授が、最先端のデータ分析手法を使って、中国政府が国内でネット上のどのような情報を検閲し、必要とあれば削除しているかを吟味してみたそうです。その結果、中国政府は、国民が「集まる」こと、つまり「団体行動」に対して、強い警戒感を持っていることが明らかになったとのことです。

デモはもちろん、単なる集会や会合のようなものに対してもかなり神経質に監視しているらしいのです。上記の記事中のキング教授の発言から少し引用してみます。

「分かったことは、中国政府が監視しているのは、とにかく「団体行動」であるということです。人を扇動したり、抗議行動に駆り立てたり、政府以外の人間が他人をコントロールしようとする発言は即刻検閲されます。「うちの市長はカネに汚いし、たくさん愛人を囲っている。最低だ」と批判を書き込んだところで、全く問題ありません。しかし、そのあとで「ひどすぎる。抗議に行こう」と発言したら、検閲される」。

「もっと言うと、例えば、「うちの町のトップはすばらしい。コミュニティを活性化しているし、我々の市民生活に貢献してくれている。感謝の気持ちを込めてみんなでパーティーを開こう」と発言しても、やはり検閲されます。政府は、自分以外の何ものかが人を動員するのが許せないわけです。それが、今回の研究で分かったことです」。

中国では人が集まろうとすると全部NGということだそうです。つまり、デモはともかく、会合、集会、そういうものであっても企画すると政府に警戒されるのです。

以前から、ウイグルやチベットなどでは、「3人集まると当局に罰せられる」といわれていました。

「中国のチベット族やウイグル族 3人集まると即懲罰の対象に」
http://m.news-postseven.com/archives/20130528_188586.html
(『News ポストセブン』2013年5月28日(元記事はSAPIO 2013年6月号))。

上記のリンク先の記事では、「3人を超える集まりは、それがどれほど他愛のない平和的な集まりであっても罰せられる」とあります。
((;゚Д゚)ガクブル

冒頭のハーバード大学の研究者の分析からわかったのは、ウイグルやチベットだけでなく、中国の他の地域でも、中国当局は人々が「集まる」ことに大きな警戒心を抱いているということです。

結局、現在の中国の社会秩序は、決して、中国の一般国民が「下から」自然に支えている秩序ではないのでしょう。「上から」、つまり政府がむき出しの権力によって半ば強引に作り上げ、維持していることを物語っています。

「中国の国民」というかたちで国全体が自然におだやかにまとまるというわけにはいかないわけです。そうはならず、放っておくと、民族や出身地域、党派、血縁、宗教などに基づく小さな集団が多数出現し、それらが相対立して大混乱状態に陥るか、反政府活動に至るという恐れがあるのでしょう。

そういう混乱状態を作り出さないために、中国当局が、権力で無理して秩序を作り出すというわけです(国外に仮想敵を作り、敵愾心によって人々をまとめるいわゆる「反日教育」も、放っておいたら分裂状態、対立状態になってしまう国全体をどうにかまとめ、秩序を作り出すのに必要なのだと思います)。

私はしばしば引用するのですが、中国出身の比較法学者の王雲海氏は、日本と中国の秩序の作られ方を、それぞれ「文化」によるもの、「権力」によるものと説明しています(王雲海『「権力社会」中国と「文化社会」日本』集英社新書、2006年)。

王氏によれば、日本の秩序の根底にあるのは、「文化」だということです。ここで「文化」とは、特に何か高尚なものを指すのではなくて、常識や慣習、伝統、慣行のようなものを表します。政治権力や法律が無理に作り出すのではなく、人々が自然に身に付けている常識や慣習、慣行が、社会秩序を支えているとみるのです。いわば一人一人がなかば無意識に備えている規律意識、秩序感覚が、社会秩序を作っているというわけです。

対照的に、王氏は、中国の社会秩序を形作っているのは、政治権力そのものにほかならないと指摘します。

日本では、民族の移動や対立が多い中国のような大陸国家とは対照的に、定住型の社会が古くから作られ、それが保たれてきたため、「文化」に基づく秩序形成が発達してきました。多くの日本人はそれぞれ、どこか特定の地域社会に代々根付いて暮らし、人の移動の少ない定住型社会を形作ってきたため、他者との深刻な軋轢を避け、互いに配慮し合い、長期的信頼を大切にする穏やかな道徳意識が発達したと考えられます。

長くほぼ同じメンバーと町や村、あるいは職場などを形作っていくとすれば、他者と対立して居づらくなるのはいやですからね。ですから「和」を大切にしようという道徳が生まれてきたのだと思います。

ちなみに、最近流行の「おもてなし」の文化も、日本のこういう定住型社会の穏和な伝統から生まれてきたとみることができるでしょう。

(^_^)

一方、大陸国家である中国では、伝統的に人々の流動性が高く、多様な民族が入り混じる社会でした。そのため、秩序形成の際に、「文化」に頼ることができません。秩序を作りだすためには、政治権力によって半ば強引にまとめ上げるしかありません。

したがって、中国では、伝統的に、巨大な王朝や中国共産党のような官僚制などが専制的な権力をもち、力で秩序を作り上げてきたといえそうです。王氏は著書のなかでフランスの著名な中国研究家エチアヌ・バラージュの次のような言葉を引いています。中国では「官僚制の天下であるか、そうでなければ無政府の状態というのが、例外のないルールであった」。

この点に関連して、昨年の記事ですが、興味深いこんな記事もありました。

「中国の12年国防費は11.2%増、公安関連支出は11.5%増」
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE82402C20120305
(『ロイター』2012年3月5日配信)。

中国の軍事費の伸びは近年著しいといわれていますが、中国の警察・公安関連の最近の費用、つまり国内の治安維持にかけている費用はそれ以上に伸びています。また、額も、軍事費よりも、国内の治安維持の費用のほうが大きくなっています(2012年度の中国の予算案によると、国防費は6703億元、対して公安費は7018億元)。

中国政府が、国内の治安維持に大変苦労しているのがよくわかります。

これに対して、日本は、なんだかんだいって、やはり治安がいいんですね。

日本の警察官の数は、国民1000人当たり、約2.0人と世界でも最も少ない水準にあります。

ですが、日本の殺人発生率は世界最低水準で、たとえば米国の10分の1以下です(10万人当たり。日本0.50件、米国5.60件。2004年の国連発表の数値)。
刑務所などへの収監率でも、同様に米国と比較した場合、10分の1以下です。(10万人当たり。日本63人、米国760人。2009年のOECD発表の数値)。

東日本大震災の直後の被災地でも、他の国のように大規模な暴動や略奪は発生せずに、秩序が保たれていました。警察や自衛隊が入れず、地方自治体も機能停止してしまったような地域でも、治安の大きな乱れというのはありませんでした。

日本の秩序は、権力や法というよりも、王雲海氏が指摘したように、慣習、慣行、伝統などに由来する日本人一人一人の規律感覚で作られているところが多いのです。

三橋さんの著作やブログでもよく触れられていますが、日本の公務員の数(割合)は、OECD諸国のなかで、最低で済んでいます。(テレビや新聞などの作り出す「日本は公務員が多く、無駄だらけだ!」というイメージとは正反対です)。
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-10996911708.html

公務員比率が小さくてやっていけてるのも、日本国民の規律感覚によるところが大きいのではないかと思います。日本人は、放っておいても一人一人がきちんとするから政府が手間をかけずに済んでいるといえるでしょう。

しかし、今は幸いなことに中国や米国のことをヒトゴト視できますが、近い将来、そうはいかなくなるかもしれません。

東京オリンピックで膨らむ建設需要を満たすために、外国人労働者を呼び込むようですし。

「「特定活動」制度で「外国人」受け入れ 建設人材不足解消へ 27年度開始目指す」
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140130/biz14013007460006-n1.htm
(『産経ニュース』2014年1月30日)

その他の面でも、グローバル化に伴う「人材交流」が進むんでしょうしね。

2008年に自民党の一部が、移民一千万人計画という政策提言を出したことがあります。
日本はこれから人口が減っていくので、50年後までに、減った分を補うため1000万人を外国から移民させようという政策提言でした。中川秀直氏が旗振り役になってまとめたものです。

そのとき興味深かったのは、同時に、「移民庁」を創設し、「民族差別禁止法」を制定するということが提言に盛り込まれていたことでした。

移民が入ってくれば、当然、軋轢が予想できるので、対立を煽るようなスピーチやネットの書き込みを禁止するなどの法律を制定し、軋轢の顕在化を防止しようということだったのでしょう。

移民一千万人計画のときの「民族差別禁止法」が表現しているように、「グローバル化」「ボーダレス化」は、必然的に、「文化」(慣習、慣行、伝統などの人々の自然な規律意識)による秩序形成から、「権力」(厳しい法の制定や、警察や公安による取り締まり)による秩序形成への移行を伴います。

政府による統制がうまく行き、治安が大幅に悪くならないとしても、結社の自由や表現の自由などの国民のさまざまな自由は制限され、管理や監視は強化されるでしょう。

同時に、警察をはじめとする公務員の数を大幅に増やし、「大きな政府」を作らざるを得なくなります。

「おもてなし」という愛すべき穏和な文化も廃れていくでしょう。

治安の良さにしろ、「おもてなし」にしろ、日本の良いところは、さまざまな微妙な条件の上に成り立ってきたものだと思います。そのことをもっと意識したうえで政策を考えてほしいものですよね

相変わらず、長々と失礼しますた…
<(_ _)>

PS
三橋貴明の無料動画「中国大炎上」を公開中
https://www.youtube.com/watch?v=Wzz3dqOIGrY

<施 光恒からのお知らせ>
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【施 光恒】「集まるの禁止!」の国への1件のコメント

  1. ウミユリ より

    移民1000万人など入れたら、こんな事件が多発、増加するのでしょうね。東京・六本木で、ナンパを無視した10代の女性をビルに引きずり込んで性的暴行を加え、現金を奪ったなどとして、フィリピン国籍の男ら2人が逮捕された。こういうことを書くと、○○人にいい人がいるとか、外国人全部が犯罪者ではないという反論が帰ってきますが、現実に移民を入れるとなると犯罪者、本国で食い詰めた貧困層、タカリ目的のろくでなしが押しかけてきますよ。それは、欧州の移民の実情が示しています。日本の治安の良さは、日本が日本人だけの国だからであり、それは日本の伝統、文化、慣習にのっとったものであることを理解しなければなりません。

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