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2013年12月3日

【藤井聡】全体主義としてのグローバリズム

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

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●韓国経済の悲惨すぎる現実とは?
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_video.php?ts=sidebar

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ハンナ・アーレント,という政治哲学者をご存じでしょうか?

彼女は,ユダヤ系のドイツ人の哲学者で,ハイデガーの弟子だった方です.

彼女は徹底的にナチスドイツを批判し,アメリカに渡り,1951年,
「全体主義の起源」
という本をまとめ上げます.

この本は,三部構成の文字通りの大作で,第一部で「反ユダヤ主義」,第二部で「帝国主義」,そして第三部で「全体主義」を論じたものです.

この本の主要なメッセージは,

「あの第二次世界大戦を勃発させ,
アウシュビッツに象徴されるユダヤ人の大虐殺という,
尋常では考えられない政策が展開された全体主義は,
実に陳腐で下らない俗情(恐怖や欲望,嫉妬など)に基づいて形成さたものに過ぎない」

というものでした.

つまり,ヒトラーの「虚栄心」やドイツ国民の「漠然とした不安」等の単なる下らない下卑た欲望が,社会学的に集積し,まとまって,集団心理のメカニズムを等して増幅して,ドイツ帝国主義が展開されていった,というものです.

....ここで彼女は,とても興味深い様々な考察を,加えています.

その代表的なものが,恣意的な理論の選定と,その狂信,です.

ドイツ国民は,自らの非合理な全体主義そのものが,不条理,不合理であることを潜在意識では認識してはいるものの,それを認める訳にはいかない...と言う潜在意識を持っていることから,普通に考えれば全く不合理にしか見えない理屈を,狂信的に信じていくことになります.

ドイツ国民が採用したその不合理の理屈というのが「ドイツ人は最も優秀な民族だ!」というものでした.科学的な根拠は大変に乏しいこの理屈は,ナチスドイツの帝国主義の展開,全体主義の敷衍において強烈に重要な役割を担っていきます.

つまり,ドイツ国民が,ユダヤ人の大虐殺に代表される「不条理」としか言い様の無い愚策を展開するための「言い訳」が国民的に望まれた結果,全く根拠薄弱な「ドイツ人優秀理論」が,社会的に圧倒的に共有化されていった,という次第です.科学や理性なんてそっちのけで,単なる不条理な社会心理学的動機故に,空理空論がねつ造されていった訳ですね.

....

ところで,当方,こういう全体主義の展開をあれこれと考えてみたとき,このナチスドイツの全体主義の展開と,メッチャクチャにそっくりな現象が,現代においても展開している...という風に感ずることが多々あります.

おおよそ,何かの強欲やら嫉妬やらの理由で特定の社会現象が起これば,その根本理由が単なる嫉妬や強欲などの下らないものであるにも拘わらず,それが理由でそれをやってるっていうのを認めたくないもんだから,無意識のうちに,なんだか訳の分からない理論が狂信的に主張されだす....という展開は,ほんっっっとに,現代社会のあちこちで見いだすことが出来るように思いませんでしょうか?

そんな中でも,特に顕著なのが,

「新自由主義経済理論」(あるいは,新古典派経済理論)

ですよね.

もともと,大企業がカネ儲けしたいとか,経済学者が大学のポジションを得たいとか,そんなクッダラナイ俗情だけで,いろんな自由化や各種改革が進められようとしているにも拘わらず,元々の動機を認めるわけにもいかん,ということで,元々も動機を「糊塗」するために,持ち出されたのが,「新自由主義経済理論」なのでは...なんて可能性は,ものすごくあるように思うわけです.

そもそも,効用最大化にせよ,完全情報仮説にせよ,ぜっったいに,現実の人間には当てはまらないメチャクチャな行動仮説に基づいて作りあげられたのが新自由主義経済理論ですから,経済学者以外は「そんなアホな」と突っ込みまくってるわけですが,当の経済学者は,絶対に「アホじゃ無い!正しいんだ!おまえがアホだ!」といってはばからないですよねぇ.

それって,上記の全体主義分析に基づけば,第二次大戦中のドイツ人に対して,
「ドイツ人だけが優秀だって根拠ないんじゃないの?」
っていくらいったって,
「そんな事無い!ドイツ人の血は,優秀なんだ!!なにいってんだ貴様??ぶっ○○すぞ!!!」
なんて恐ろしい反応が返ってくる...っていうのと,同じかもしれませんよね(おーーーこわ 汗).

・・・・という風に考えると,実は,今日の,自由主義経済礼賛の風潮,グローバル資本主義礼賛の風潮,っていうのは,ナチスドイツと同じような「全体主義現象だ」と考えることで,いろいろとスッキリと理解できるのでは??なんて可能性が考えられることになるわけです.

で,当方は今,今日の経済政策やグローバリズムの展開をナチスと同様の「全体主義現象」だと捉える,っていう角度から,どうにかこうにか,今日の問題に対する処方箋を,導き出せないかと考えているのですが.....

さて!

そんなあたりの話は,昨日京都で開催しました「グローバル資本主義を超えて」というシンポジウムの中で,じっくりとお話いたしました.

当方の講演タイトルは,

「全体主義としてのグローバリズム」

というものです!

そのあたり,これからあれこれと情報配信して参りたいと思いますので,また是非,ご参照ください!
(当方のPCではどういうわけか見れないのですが,
http://www.ustream.tv/recorded/41300779
で,動画が見れるようです)

ところで....こんなコトをあれこれと考えていて,最近気付いたのですが,丁度今,

『ハンナアーレント』http://www.cetera.co.jp/h_arendt/

っていう.もろ,全体主義の問題を扱った映画が,日本で封切りになってるんですね!?

そんなコトを知って,当方,改めて「おそらくこれは,世界中の「心ある人」が今,21世紀になって再び不合理な全体主義が世界を席巻し始めている....という風に感じ始めていることの証左なのでは?」なんて,感じた次第です.

この全体主義の暴走をとめるためにも,まずは,今世界中で,そんな不合理な全体主義がはびこりまくりつつある....と言うことを知ることが必要なのかもしれませんね.

では,また来週!

PS
『月刊三橋』会員限定QAと12月の号で中国の防空識別圏設定の問題を取り上げています。
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_video.php?ts=sidebar

<藤井聡からのお知らせ>

「なんて人々は馬鹿でエンプティ(空疎)なんだ....」なんて思ってらっしゃる方,バ○につける薬なんてホントはどこにお無いんですが(笑),存在自体が病気の人や集団にはなんか処方しなきゃ.....ってことで,大まじめに一冊本をまとめました!ちょっと先ですが,下記に出版しますので,是非,ご一読ください!

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PS
ちょうど10年前に,提案した「処方箋」まだまだ有効な患者さんもおられますから,もしよろしければ,処方してみて差し上げて下さい(笑.

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【藤井聡】全体主義としてのグローバリズムへの1件のコメント

  1. 一筆 より

    ハンナ・アーレント「全体主義の起源」の解説は面白く読ませて頂きました。しかし、突然の「新自由主義経済理論」批判に転ずる辺りは、客観的にも腑に落ちません。私は、新古典派経済理論を絶賛する立場にはありませんが、この文章の纏め方に不合理な理屈を感じてしまうのです。不条理な世界観で、今でも数十億の人間が虐げられています。白人による有色人差別、イスラームでの女性差別、インドカースト制による差別、シナ共産党による人民差別、アメリカ・オセアニアの原住民差別等、全体主義による理不尽な世界観強要は山とあります、そこに「自由」だけを強調すると無秩序な世界へ変貌する恐れもあります。世界は複雑であります。だから家に閉じ籠ってブツブツ言っていても、何等問題解決の糸口は見出せません。世界の悪しき資本家を駆逐すると言っていたのは、マルクスでありレーニンだったりしました。藤井さんの意見は、全体主義の中の一部しか批判しておられないように感じますが、如何でしょうか。

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