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2013年9月3日

【藤井聡】公共事業を巡る「報道の不当性」を解説します。

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

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ボロボロに搾取されるアメリカ国民たちの哀れで悲しい現実。
日本人が今、やるべきこととは・・・・

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この度、政府の各省庁が、「概算要求」なるものを公表いたしました。

これは、来年度の予算として、各省庁がどれだけ必要なのかを「要求」するものです。

これに関しては、今年は、「昨年の予算の90%〜117%までの間で、要求をする」ということになっており、その範囲内で各省庁は要求をいたしております。

これはあくまでも要求でありまして、要求したものが即座に全額認められる、というわけではありません。これから、厳しい査定が待ち構えておりますので、要求したものから一定程度「減額」される可能性が見込まれています。

従いまして、為すべき事をたくさん抱えている省庁は、要求できる限度額に近い金額を要求する、という格好に必然的になります。

そして、多くの公共事業を持つ国土交通省におきましても、その他の省庁と同様、限度額に近い金額を要求いたしております。これだけ巨大地震の危機が国民的に広く認識され、インフラの老朽化対策の必要性や集中豪雨の対策が強く叫ばれている今日におきましては、こうした対応が「国益」に叶う可能性は、十分考えられるものであるとも考えられます。

ところが…….これにつきまして、東京新聞に以下の様な「社説」が公表されております。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013083102000140.html

この「社説」を目にしました折、この主張は必ずしも正当化し得ぬのではないか、あるいは、一部の国民がこの「社説」の論調を信ずることで、適正な世論が形成されず、それを受けて必要な地震対策等ができなくなり、その結果として、より多くの国民が災害によって殺められてしまう可能性を増大させてしまうことにも繋がり得るのではないか……という大きな「危機感」を感じました。

ついては、そうした最悪の事態が実現する可能性を可能な限り低減させることを企図しまして、なぜ故にこの「社説」が正当とは言いがたいのか、という点につきまして、解説申し上げたいと思います。

まず、第一に、以下の記述について。

『国土交通省はこの枠を目いっぱい使い、道路整備や新幹線、治水などすべての項目で、本年度をそれぞれ17%上回る上限額まで要求した。これではメリハリも工夫もない、単なる「一律増額要求」である。』

これは、国交省の予算要求に「メリハリ、工夫」は無い、とのご指摘ですが、そのご指摘が正しいのは、

「各項目で、本当に国益のために要求すべきものがほとんど無いのに、
無理矢理、増額した場合」

に限られます。なぜなら、もし、「国益のために要求すべきものがたくさんある」のなら(つまり17%以上あるなら)、国交省は「17%増分以内に収まる」ようにするために、「工夫」をしながら「メリハリ」をきかせたに違いないからです。

したがって、この社説の様に「メリハリも工夫もない」と「断定」されるのなら、「国交省が国益のために必要だと考えている項目は、17%増以下の水準しかない」ということを明らかにする必要があります。

しかし、この東京新聞の社説にはそうした議論は一切掲載されていません。

したがいまして「これではメリハリも工夫もない、単なる「一律増額要求」である。」といった主張をなさるこの社説こそが、「メリハリも工夫もない、単なる思考停止に基づく「一律的誹謗中傷」にしか過ぎないのではないか」と指摘されたとしても致し方無いのではないかと考えられます。

上記に引き続きます次の記述もまた、誠に承服しがたい主張なのではないかと、筆者には思えてなりません。

『公共事業の中では、土地改良のための農業農村整備事業も膨張し、「建設族」に負けじと「農林族」も予算に群がった。旧来の族議員政治に逆戻りしたといわれても仕方あるまい。』

この記述におきまして、まず第一に、「族議員政治」というものが一体何であるのかが不明瞭であります。

しかしながら、おそらくは

『特定の業界から私的利益を得ることを目的として、
当該業界のために働く議員』

をして「族議員」と定義し、その族議員の圧力によって動かされる政治を「族議員政治」と呼称しているものと想像されます。

が、もしもそうであるとするなら、上記の様な主張をするためには、

「建設や農林の行政のために働く議員は、私的利益のために働いているのであって、
建設や農林の行政を改善し、それを通して公益を増進させようとしている人ではない」

ということを明らかにすることが不可欠です。さもなければ、「族議員」と呼ばれた方々に、濡れ衣を着せてしまう危惧が生じてしまうからです。

しかしこの社説では、そうした論証は完全に欠落しております。

したがって、このままではこの社説は、建設や農林の必要性を論ずる政治家先生方全員に濡れ衣を着せる、悪質な「誹謗中傷」である疑義が濃厚であると言わざるを得ません。

ついてはこの社説におきます「旧来の『族議員政治』に逆戻りしたといわれても仕方あるまい。」なる記述それ自身が、「旧来の『誹謗中傷報道』を継続し続けているといわれても仕方あるまい」と指摘されても致し方なきものと強く感ずる次第であります。

最後に、上記に引き続いた下記の記述につきましても、重大な国益毀損をもたらす危惧を秘めたものではなかろうかと思われます。

『二〇〇〇年代以降、公共事業費は削減傾向が続いてきたが、安倍政権発足に伴って大幅増に転じている。大胆な金融緩和と機動的な財政出動というポリシーミックス(金融・財政政策の組み合わせ)で景気浮揚を図るアベノミクスは常識的な経済政策であり、一時的な公共事業の拡大はやむを得ない面はある。
だとしても、度を越したバラマキや、費用対効果の低い事業など「何でもあり」の余裕はないのである。』

このご主張は、今回の17%増という国交省等の要求が「度」を越したものであり、しかも、費用対効果の低い事業を多数含んだ「ばらまき」の類いのものにしか過ぎない、という「印象」を強烈に植え付けるものであることは否定し得ぬ事実でありましょう。

したがって、こうした印象を主張する論者は、

「今回の要求が、如何なる意味において「度」を越したものである」

という点を明らかにすると共に、

「今回の要求の中に費用対効果が低い事業が多数含まれている」

ということを明らかにする「義務」を負っています。

もしもこの二点を明らかにしないままに、ただいたずらに「度をこした要求だ」「効果の低い事業をやっている」という趣旨を含意する主張を行えば、それは公共事業の関係者、関係組織に対する悪質なる誹謗中傷にしか過ぎない可能性が生じてしまうことでしょう。

ところが、この二点を明らかにする記述は、当該社説には一切見当たりません。

したがいまして、この主張もまた、公共事業に関連する省庁や関係者に対して濡れ衣を着せる、完全なる「誹謗中傷」である可能性を色濃く含んだものにしか過ぎないと言わざるを得ません。

すなわち、『度を越したバラマキや、費用対効果の低い事業など「何でもあり」の余裕はないのである。』なぞという悪印象を与える主張を公器たる新聞紙上に掲載する人物ないしは組織に対してこそ、「貴重な公器たる新聞には、単なる誹謗中傷を掲載するなど「何でもあり」の余裕はないのである。」との批判を差し向けねばならぬのではないかと思えてならないのであります。

いずれにしても、民主主義の今日におきましては、世論の動向が、政策の有り様に巨大な直接間接の影響を及ぼすことは論を俟ちません。

そして、新聞という公器は、その世論に甚大な影響を及ぼし得るものであります。

したがいまして、新聞に掲載される社説は、日本の未来に重大な影響を及ぼし得るものであると言わざるを得ないのです。

当該新聞社説を公表された個人ないしは組織は、日本の未来にそうした重大な影響を及ぼし得る可能性を十二分に認識して頂くことを、心より祈念せずにはおれません。

万一、そうした個人ないしは組織が、そうした責任感を十二分に携えているとの自認をお持ちでありましたら、当方の上記の「解説」が如何なる意味に於いて不当であるのかを、万人が理解できる形で詳らかに反論されるか、あるいはそれをなさらないのなら、上記解説をお目通しの上、日本国民のために心からの猛省をなさるかのいずれかを、強く促したいと思います。

PS 「公共事業」が如何なる意味で求められているのかについてご関心の方は、「コンクリートから人へ」を主張した民主党政権下で書かれました、「公共事業が日本を救う」を是非、ご一読下さい。
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PPS
「小さな政府」論を実現した結果、アメリカ社会はいかに破壊されたのか?
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【藤井聡】公共事業を巡る「報道の不当性」を解説します。への2件のコメント

  1. 航海長 より

     古い政治や族議員は駄目なんだ!何故駄目なのか?オレ様東京新聞が決めたからさ!文句言うな!ってか

    返信

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  2. Yuriya Kaito より

    戦後利得者の歪んだ感性と言論に、鋭く切り込んで行く姿は格好いい!胸のすく思いがして、何か『半沢直樹』を連想します。藤井先生のこの文章が、東京新聞の執筆担当に届くことを願います。

    返信

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