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2013年3月19日

【藤井聡】「真っ当」な議論

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FROM 藤井聡@京都大学

先日,内閣官房に設置されました,
「ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会」
の第一回目の会合が開催されました.

この懇談会では,「国土強靱化」の取り組みを通して,
どの様にすれば,日本の国全隊としての強靱性,すなわち,
「ナショナル・レジリエンス」(国家強靱性)
を確保することができるのかを考える会合です.

で,この懇談会にお集まり頂いているのは,財政,金融,エネルギー,物流,リスクマネジメント,環境,高齢化社会,農林水産業,地域コミュニティ,国土,防災.....等の実に様々なご専門の有識者の方々で,僭越ながら,当方にてとりまとめをさせて頂きながら進めようとしているものであります.

この委員の皆さんの陣容からもお察しいただけるものと思いますが
「国家的な強靱性」を確保するためには,
ホンットにあらゆる視点からの議論が必要で,
それらを全て,弁証法的にアウフヘーベンしていくこと...
が求められているものと思います.

....っていうとややこしいかもしれませんが,
要するに,いろんな視点を単に「並列的に並べ立てる」だけでなくて,
いろんな視点や議論の「化学反応」をおこしていかないと,
ナショナル・レジリエンスなんて,得られない(!),
ということであります.
#この化学反応,ってのが,哲学で言うところの弁証法,
っていうものなわけですね.

さて....今日は,その第一回の懇談会での議論の一部(←ホンットにごく一部です 笑)をご紹介差しし上げたいと思います.

当方からは,
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai1/siryou8.pdf
という資料をご提供差し上げたのですが,
その中で,次の様なお話をご紹介さしあげました(上記PDF資料の3ページ目).

======
・過剰な「個別化」が,「全体」の「脆弱化」をもたらす.
→「ミクロmicro な視野」のみには限界あり.「マクロmacro な視野」が不可欠

・過剰な「競争」が、全体の「脆弱化」をもたらす。
→「競争competition の原理」のみには限界あり「協力cooperation の論理」が不可欠
→「市場market の論理」のみには限界あり.「統治governance の論理」が不可欠
======

これは要するに,何でもかんでも個人主義的に考えて,
とにかく競争すりゃぁいい,
ぜーんぶ市場にまかせりゃぁいい,
ってことをやり過ぎたら,
どんな国でも,すぐにめっちゃ脆弱化して,
ちょっとした事故があったり災害があるだけで,
メチャクチャになる....
(↑もちろん,「適切」な水準の個人主義,競争,ミクロな視点,市場が必要なのは論を待ちませんが,という趣旨のことも付言しました)

だから,そういう考え方からの転換が必要で,
マクロな視野を取り戻し,
みんなが協力する姿勢をとりもどし,
政府がやるべきことはやる,っていう態度を鮮明にしていくことが大切で,
そうしなけりゃレジリエンス=強靱性なんて手に入れられない....
という趣旨のことを説明申し上げた次第です.

これに対して,まず第一声として,
ケインズ経済学を含めた経済学を,
思想的な側面からも幅広くご研究されてきた
東京大学の松原隆一郎教授が,上記の当方のコメントに対して,
強い賛同の意を表して頂き,その上で,
次のようにコメントしてくださいました.

「日本は、これまで経済の秩序は基本的にマーケット(市場)に任せるべきとの考えが主流だった。(レジリエンスは)市場が秩序を保つためには、その前に危機をいかに管理するかという考え方だろう」

つまり,レジリエンスが不在では,
自由な消費者の消費行動も,
自由な生産者の生産活動も,
何もかも不能となるのであって,
様々な危機に対応し,
一定の安定を確保するレジリエンスがあってはじめて,
マーケット(市場)が成立するのだ,というご指摘であります.

したがって,このご指摘は,
自由なマーケットの達成を議論する以前に,
レジリエンスが十分に確保されているか否かを議論すべし
という点を示唆しておられるわけで,

さらには,レジリエンスという概念は,基本的にマーケット=市場の「外側」
に位置するものなのである,という事を暗示するものでもあります.

ということは,市場の原理をどれだけ活用しても,
レジリエンスが形成されていくという事態を構想することは,
原理的には不可能だ,という事が暗示されるとも言えるようにも思います.

もちろん,このご指摘は,
レジリエンスの確保にあたって
市場の原理を部分的に活用することまで否定するものではありませんし,
場合によってはその活用が得策であることもあろうかと思いますが
市場の原理「だけ」では,
その確保が難しいというご指摘と言えるでしょう.

....

おそらくこうした議論は,
どの様な立場の人であっても否定しがたい
「真っ当」なものなのではないかと
お話をお聞きしながら感じた次第です.

ついては,こうした「真っ当」な議論を一つでも多く拝聴し,
それらに基づきまして日本の様々な経済政策,社会政策が展開されていきますことを,
微力ながらも当方として全力でご支援して参りたいと,
改めて感じた次第であります.

なお,第二回懇談会は,3月22日開催予定です.
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai2/2kaisai.html

PS
ナショナル・レジリエンスについては
こちらの本が参考になります。
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【藤井聡】「真っ当」な議論への2件のコメント

  1. 遠藤みゆき より

    初めまして。藤井先生の強靭化計画を興味深く見守っています。私は福島県いわき市在住です。弱小食品問屋を営んでいます。大型スーパーが流通を簡素化したおかげでというか問屋業はもう役目は終えてるんじゃないか、衰退していくばかりです。何とか学校給食の入札権利を持ってますので細々と続けているといった状態です。学校給食がなければもしかしたら倒産してたかもしれません。そんな中に起きたのが2年前の大震災と東電事故でした。流通が止まり(当時、いわきが放射能に汚染されたと風評被害でゴーストタウン化しました)県外避難した人も多かったです。近隣にはそのまま自宅に残った人も勿論多くいました。1か月も断水が続き、ガソリンスタンドはガソリンが無くなりコンビニ・スーパーも閉店・病院でさえ閉まってました。私たち家族は食品問屋を営んでますので食糧の心配はしてませんでした。が、周りのお店が閉まってる為に食糧がない一般家庭が多かったと思います。震災から3日後に(初日翌日は水道水確保に駆けずり回ってました)ラジオで放送してもらい店を開けました。問屋なので一般売りは通常してません。小さいパックではなく大袋単位ですがスーパーさんに卸すのと同じくらいの単価で販売させてもらいました。さすがに弱小問屋ですのでボランティアで無料配布は出来ませんでしたが近隣住民から喜んでもらいました。今思うと、青空市場状態で1週間販売してましたので保健所から指導なりあってもおかしくなかったかもしれません。小さい問屋ですがトン単位で食料品は常備あります。レンジ調理できる食品も多くあり、3月末には冷凍庫がほとんど空っぽになりました。月末の買掛金の支払いもどこにも迷惑かけることなく出来ました。どこでもまだ全国的に食品問屋はあると思います。もし仮に私たちのような問屋や商店などが有事の際のシステムなど(土建屋さんのような?)あればもっとうまく動けたかもしれないし住民の不安も多少とも減ると思うのです。問屋が一般のお客様に販売するとスーパーなどから苦情などあるので普段はタブーなのですが、有事の際だけの対応ということで例えば地図などにマーク付けるとか(問屋なので大きな看板がなく、場所が分らなかったと言われました)自治体HPなどに掲載するとか。被災すると食べ物の心配が一番先にあります。一般家庭の食糧の備蓄と言っても数日分、自衛隊や市からの配給は数回あっただけでした。被災地には食料品がスーパーや問屋にあるのにそれを利用せずに遠方からの配給を待つのはおかしいと思います。大手スーパーは(イオンやドンキホーテなど)2〜3週間くらい?落ち着いてから開店しましたが現地で個々に行動を起こせたのはこういった小さい商店でした。食料品に限らず、そういった被災した地元企業の協力と支援をうまく使ったシステムを作っていただければ素晴らしいと思います。学者さんなどは幅広い知識がおありですのでもっと適切なシステムなどがあるかもしれないと思いますが、私の一つの小さな意見としてお読みいただけるとありがたいです。おかげさまで復興補助金で大規模半壊だった会社の建直しを現在しております。

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  2. Yuriya Kaito より

    藤井先生、お疲れ様でございます。アンチ新自由主義経済の論理、極めてまっとうで正しいものと感じられます。これを「レジリエンス経済学」とでも呼ぶのでしょうか。藤井先生のような、硬軟合わせ持つタフガイに、日本のリーダーたる内閣総理大臣になっていただきたい!10年後、あるいは10年以内、ではいかがでしょうか。

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