【佐藤健志】生きることと働くこと

From 佐藤健志

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【無料動画】

本当に経済学は経済を良くするのか?
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TPPは日本の植民地化を進めるのか・・・?
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岩手県では2015年度より、「いわて復興未来塾」という催しが、二ヶ月に一度のペースで開催されています。

これは「いわて未来づくり機構」という、産・学・官による連携組織の作業部会のひとつ。
未来づくり機構は、県庁のホームページでも、公式のプロジェクトとして位置づけられていました。
http://www.pref.iwate.jp/index.html

未来塾の開催趣旨は次の通り。

東日本大震災津波からの復興を力強く進めていくためには、復興を担う個人や団体など多様な主体が、復興について幅広く教え合い、学び合うとともに、相互に交流や連携をしながら、復興の推進に生かしていくことが求められています。
このため、平成27年度から「未来づくり=人づくり」の考え方のもと、「いわて復興未来塾」を開催しています。
http://iwatemirai.com/roundtable/iwatefukkoumiraijuku.html

塾はこれまでに4回開かれました。
毎回、復興にまつわるさまざまなテーマをめぐり、基調報告やパネルディスカッションが数時間にわたって行われます。
その後は、任意の参加者による交流会も。
会場のスペースの関係から、参加人員には限りがあるようですが、希望者は誰でも参加できるそうです。

さて。
11月28日に開かれた4回目の未来塾に関連して、同県の達増拓也知事が、このようなツイートをしました。

今日のいわて復興未来塾。県外出身で、震災後に大槌に住むようになった女性から、「大槌には、暮らしやすさとはちょっと違う『生きやすさ』がある」との意見。同様に釜石に住むようになった女性は、「岩手では働くことと生きることが一致する感じ」と。
https://twitter.com/tassotakuya/status/670565857429327872

暮らしやすさとはちょっと違う「生きやすさ」。
働くことと生きることが一致する感じ。

なかなか素敵な表現ですが、具体的にはどういうことなのでしょう?
「働くことと生きることが一致する」という、後者のフレーズを糸口に考えてみます。

生産年齢人口に属している者、ないしその大多数にとり、働くことは生きることの重要な側面。
ただし人間の生活には、働くこと以外の側面もむろんありますから、「働くこと=生きること」という等式は本来、成立しません。

連日連夜、とにかく働きづめで、他の側面を生活に盛り込むゆとりがないのであれば、仕事が生活のすべてになっている点で、「働くこと=生きること」かも知れませんよ。
けれども達増知事のツイートに登場した女性が、そういう意味で「岩手では働くことと生きることが一致する」と発言したはずはない。
だいたい「仕事中毒」は、他の都道府県でも広範に見られる現象です。

普通に考えれば、この女性は「岩手では、生活における仕事の側面と、それ以外の側面が調和しやすい」と言いたかったことになるでしょう。
いわゆるワーク・ライフ・バランスが、うまく取れているということです。
こう解釈すれば、「暮らしやすさとはちょっと違う『生きやすさ』がある」という、もう一つの意見とも趣旨が合う。

だとしても、なぜ「一致する」という表現を使ったのでしょう?
ワーク・ライフ・バランスが取れていれば、生活が仕事一色になることはありません。
逆に言えば、「生きること」と「働くこと」は一致しないはずなのです!

この点を理解するカギとなるのが、じつはデフレ脱却をめぐる議論。

ご存知のとおり、デフレとは社会規模における需要不足です。
それが供給能力の衰退を引き起こし、経済がどんどん縮小する方向に進んでしまうと、大変なことになる。

裏を返せば、デフレ脱却を達成するには需要不足の解消が大前提。
だからこそ本紙執筆陣のみなさんも、需要をつくりだす積極財政の必要性を繰り返し説いているわけです。

経済活動の規模を示す(名目)GDPは、需要(支出面)の総計としても算出できるし、供給(生産面)の総計としても算出できる。
規模自体は、どちらで計っても一致するのですが、経済を豊かにしてゆくうえでは、需要のほうを重視しないとうまく行かないのですね。

しかるに「働くこと」と「生きること」の関係を、これに当てはめるとどうなるか?

「働くこと」は供給にあたります。
生産活動と呼ばれるくらいですから。
ならば「生きること」は経済活動全体にあたるはず。

しかるにお立ち会い。
「経済活動の規模を示すGDPは、需要の総計としても算出できる」という点を踏まえた場合、「生きること」が需要にあたると考えても、なんら問題はないのです!

生きてゆくにあたっては、財やサービスの消費、すなわち支出が必然的に生じますからね。
現に「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、「ライフ」を「仕事を含めた生活全体」ではなく、「生活における仕事以外の(=収入ではなく支出を伴う)側面」という意味で使っています。
「ワーク」がそもそも「ライフ」の一部だとすれば、両者のバランスを取るという発想は成り立ちません。

生きることは需要で、働くことは供給。
その場合、先の段落はこう書き直せます

人間の生活の規模は、「生きること」からも計れるし、「働くこと」からも計れる。
規模自体は、どちらで計っても一致するものの、人生を豊かにしてゆくうえでは、「生きること」のほうを重視しないとうまく行かない。

おっと!
働くことと生きることが一致したではありませんか。

こう考えると、達増知事のツイートに登場した女性の言葉も、きれいに筋が通ります。
くだんの女性は、「岩手では〈働くこと〉と〈生きること〉の関係を、〈生きること〉のほうを重視して考えるので、両者が人生を豊かにしてゆく形で一致する」と言いたかったのです。

同じツイートにあった「暮らしやすさとはちょっと違う『生きやすさ』」という言葉も、これを踏まえるとずばり明快。
暮らしやすい環境においても、人生が豊かになるとは限りませんから、こちらの女性が言いたかったのも「大槌には、人生が豊かになる形で生きてゆける感覚がある」ということに違いありません。

とはいえ、なぜ岩手において、そのような状態が実現しているのか?
同県の風土、歴史、文化など、要因はいろいろ考えられますが、見落とせないのは震災体験です。

「人間を正気にするものは、重病になるか、戦争に行くか、刑務所に入るかの三つだけ」という格言ではありませんが、人間は危機的な状況に陥ると、人生で何が本当に重要か、かえって見えてくる。
私自身の経験で言っても、今年9月、交通事故で重傷を負ったことは、自分の生き方を考える良いきっかけとなりました。

となれば、「生きること」が「働くこと」より重視されるのも道理。
ツイートで紹介された二人の女性が、ともに震災後、県外から岩手に移り住んだことも、そうなると意味深長です。
復興をめぐっては、まだまだ大変なことも多いでしょうが、震災を乗り越えようとすることで、岩手はかえって「生きやすい」土地になったのかも知れません。

そしてこれは、復興推進にとっても重要なこと。
いわて復興未来塾の開催趣旨は「未来づくり=人づくり」ですが、人づくりとはすなわち「人生づくり」ですからね。

なお来週は都合によりお休みします。
12/23にまたお会いしましょう。
ではでは♪

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