【柴山桂太】クリスマスの不思議

From 柴山桂太@京都大学准教授

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2015年、世界はまさに激動の年となった。中東問題はフランス・パリでの同時多発テロやトルコ軍機によるロシア軍機撃墜にまで至った。また、南沙諸島では中国による人口島の埋め立てに対し、アメリカが自由航行権を主張すべく、米軍機を飛行させた。ウクライナ問題は解決の糸口さえ見えない。さらには、シリア情勢を受け、EU諸国へ大量の難民が流入している。

こうした世界情勢の中、各国経済はこぞって低調。なかでも、これまで世界経済牽引の一翼を担っていたように見えた中国経済が、著しく失速している。2016年の世界はどうなるのか。そして、日本にはどのような影響があるのか。

三橋貴明が2016年の世界と日本を語る、、、

『月刊三橋』最新号はこちら
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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 クリスマスの風習は、日本社会にすっかり定着した感があります。クリスマスにはキリストの降誕祭という宗教行事としての側面と、サンタクロースが子供達にプレゼントを配り歩くという商業行事としての側面がありますが、日本で広まったのは言うまでもなく後者です。子供達は今晩、サンタクロースからのプレゼントを楽しみにしながら眠りにつくことでしょう。

 ものの本によると、クリスマス行事が日本に入って来たのは戦前から、サンタクロースの「神話」が全国的に広まったのは戦後からということのようです。もともとキリスト教国ではない日本で、クリスマスの宗教的意義が強調されることはありません。日本のクリスマスは、歳末を派手に騒いで過ごす商業イベントとして独自の展開を遂げてきました。

 もっとも、クリスマスの商業化は日本だけの現象ではありません。この風習の発祥地となった欧米でも、クリスマスはキリスト教のイベントというより、サンタクロースに象徴される消費社会のイベントとなりつつあるようです。

 特にアメリカでは、この時期の消費拡大が一年の景気を左右するほど、経済にとって重要な意味を持ちます。サンタクロースが頑張らないと景気が悪くなるというわけですから、この緋色の衣装に身を包んだ恰幅のよい老人は、キリスト教の司祭というより資本主義の司祭と考えるべきなのかもしれません。

 実際、敬虔なキリスト教徒からは、サンタクロースは異教的な存在と見なされることもあるようです。人類学者のレヴィ=ストロースは、一九五〇年代のフランスでカソリック教会がサンタクロースを火あぶりにした事例を伝えています(『サンタクロースの秘密』)。

 もちろん火あぶりにされたのは人形で、子供達をかどわかす異教の神を、象徴的に処罰したということのようです。これは当時も議論を呼んだそうですが、よく考えてみればキリスト教とサンタクロース崇拝の間には、埋めがたい溝があります。

 今日私たちがよく知っているクリスマスの風習は、キリスト教の教えに基づくものというより、ヨーロッパで古くから行われていた土着の祭り(冬至祭)を引き継ぐものです。一年でもっとも日照時間の短い時期、死の影が大地を覆うこの時期を、お祭り騒ぎでやり過ごす。元は数いる聖人の一人に過ぎなかった「聖ニコラウス」が、土着のお祭りと結びついて気前よくプレゼントを配る「サンタクロース」に姿を変えていった背景には、なかなか興味深いいきさつがあるようです。

 サンタクロースは、この冬至祭においてあの世とこの世をつなぐ象徴的な存在でした。同時に、現代社会においては、人々の消費を活気づける資本主義の司祭でもある。赤色の衣装に白ひげのサンタクロース像を決定づけたのはコカコーラ社のポスターだと言われますが、コカコーラ社がこの有名な宣伝を打ったのは一九三〇年代。つまり大恐慌まっただ中の時期です。サンタクロースは単なる冬ではなく、資本主義の冬が生み出した異形の神なのかもしれません。

 いずれにせよクリスマスは、単なるキリスト教の祭日というには収まらないものに変貌を遂げています。ヨーロッパの土着宗教とキリスト教が結びつき、後に資本主義によって変形されて世界中に広まった、実に不思議な現代のお祭りなのです。

—発行者より

2015年、世界はまさに激動の年となった。中東問題はフランス・パリでの同時多発テロやトルコ軍機によるロシア軍機撃墜にまで至った。また、南沙諸島では中国による人口島の埋め立てに対し、アメリカが自由航行権を主張すべく、米軍機を飛行させた。ウクライナ問題は解決の糸口さえ見えない。さらには、シリア情勢を受け、EU諸国へ大量の難民が流入している。

こうした世界情勢の中、各国経済はこぞって低調。なかでも、これまで世界経済牽引の一翼を担っていたように見えた中国経済が、著しく失速している。2016年の世界はどうなるのか。そして、日本にはどのような影響があるのか。

三橋貴明が2016年の世界と日本を語る、、、

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【柴山桂太】非凡な平凡人

From 柴山桂太@京都大学准教授

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ドイツはいま、5つの難問に直面しているという。
フォルクスワーゲンの排ガス不正問題、世界的なデフレ、ギリシャ問題、難民問題、ウクライナ問題。

ウクライナ問題はやや特殊な事柄ながら、他の4つの難問はほぼ根っこを同じくするという。

「グローバリズムは現代の帝国主義だ」と主張する三橋貴明が、
ドイツが難問を抱えることになった背景、経済学の間違い、
そしてグローバリズムという名の「新帝国主義」について詳しく解説する。

月刊三橋11月号「ドイツのバカの壁」が聞けるのは本日12/10まで
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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先日、テレビで面白いドラマを見ました。NHK「経世済民の男 小林一三」です。
http://www.nhk.or.jp/dsp/keisei/ichizo/

小林一三(1873-1957)は戦前の大阪を代表する実業家で、阪急電鉄や宝塚歌劇の創始者として知られています。慶応出身で、日本の経済界に一大勢力をなした「福澤山脈」に連なる一人でもあり、第二次近衛内閣では商工大臣を務めたこともあります。

というと華麗なる経歴に見えますが、若い頃の花柳界遊びで新聞沙汰になるスキャンダルを起こしたり、事業が思い通りに行かず何度も頓挫しかかったり、役人との権力闘争に負けて大臣を辞任させられたりと、失敗の連続でもあったようです。ドラマでは、小林のこうした人生をコメディタッチで描いていて、偉大な実業家というよりは「非凡な平凡人」としての顔を強調する仕立てとなっていました。阿部サダヲや奥田瑛二、瀧本美織の好演もあって、よく出来たドラマになっていたと思います。

ドラマを見て印象に残ったことがいくつかあります。まず、戦前の経済の中心地はなんといっても大阪だったということ。小林は甲州出身で、もともと大阪に地縁がなかったのですが、大阪での銀行員生活(ドラマでは文学の夢を諦めきれず、花柳界遊びにばかり精を出す冴えない銀行員として描かれていますが、伝記などを読むと本当にそうだったようです)を通じて次第に実業家としての本能に目覚めていきます。

小林が大阪にやってきたのは日清・日露戦争期で、大阪が起業ブームに沸いていた時代でした。その中心にいたのが、産業界にリスクマネーを提供していた金融家たちです。小林に決定的な影響を与えたのは、銀行員時代の上司だった岩下清周でした。

後に岩下は北浜銀行を設立し、今日いうところ投資銀行業務を開始します。また岩下は社会資本が日本に発展には不可欠という信念の持ち主で、大阪電気軌道の社長時代には生駒トンネルの建設を実現しています。北浜銀行は無理な融資がたたって破綻してしまいますが、民間人の立場から社会資本の整備に取り組むべしという岩下の信念は、小林に受け継がれていきます。

つぶれかけた電鉄会社(箕有電軌)の経営者となった小林が、路線の拡張や宅地開発、ターミナル駅でのデパート事業や宝塚少女歌劇など数々のアイデアを繰り出して、事業を成功に導いた物語はよく知られています。こうした発想の元にあったのは、中間層がいずれ経済社会の主役になるという小林のビジョンでした。郊外の一戸建てに住む普通の家族が、たまの休みに電車にのってデパートに行き、買い物や食事、観劇や映画を楽しむ。これは戦前・戦後にかけて形成された日本型中間層のライフスタイルですが、小林はそれを先取りした事業家でした。

戦前はあれほど栄えた大阪も、いまでは衰退を余儀なくされています。中間層も次第にまとまりを失って、住環境やライフスタイルも様変わりしました。しかし、都市の発展に社会資本の整備は不可欠であり、普通の家族のささやかな楽しみを提供することに事業の本道があるという創生期の事業家の信念には、今日なお引き継ぐべき何かがあると思えてなりません。

ドラマは、小林が生前最後に行ったスピーチが再現されていました。
「働くというのはね、本来とっても楽しいことなんです。夢を描いてね、知恵を絞る。その果てに笑ってくれる人がいる。その対価として報酬がついてくる。これがね、楽しい。実に楽しいことなんですよ。自分の人生がここにあると感じることができる。…努力はね、絶対に報われなきゃなりません。報われると嬉しいでしょ。立場が変わったら今度は報いようとするでしょ。そういう循環を持つ社会は、頼もしいことになると思うんです。」

「報われると嬉しいでしょ、立場が変わったら今度は報いようとするでしょ」という言葉は、それだけを取り出せば常識的に過ぎるメッセージになってしまいますが、戦前・戦後の日本の混乱期を生きた小林一三という実業家の、波乱に満ちた生涯を締めくくる言葉として聞くと、胸打たれるものがあります。経済社会はこの一〇〇年で複雑怪奇に進化してしまいましたが、生活の根本にある常識は変わっていないのだと、あらためて感じた次第です。

<お知らせ>
表現者最新号、特集は憲法改正です。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0170CLM6G

—発行者より

ドイツはいま、5つの難問に直面しているという。
フォルクスワーゲンの排ガス不正問題、世界的なデフレ、ギリシャ問題、難民問題、ウクライナ問題。

ウクライナ問題はやや特殊な事柄ながら、他の4つの難問はほぼ根っこを同じくするという。

「グローバリズムは現代の帝国主義だ」と主張する三橋貴明が、
ドイツが難問を抱えることになった背景、経済学の間違い、
そしてグローバリズムという名の「新帝国主義」について詳しく解説する。

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php
※月刊三橋11月号「ドイツのバカの壁」が聞けるのは本日12/10まで